第2話居酒屋夜明け

清水と石川はモツ鍋専門店夜明けの暖簾をくぐった。

「オイッスー」

と、清水が大将に挨拶すると、

「いらっしゃいませ。お久しぶりです」

「先週も来たよ」

「清水さんが3日来ないと、久しぶりになるんですよ。さ、座敷席にお座り下さい」

清水と石川はアルバイトの女の子に案内されて席に付いた。

「石川、好きなもの飲め」

「じ、じゃあ僕はハイボールで」

「お姉さん、オレは中外のセットで。黒ね」

「かしこまりました」

お姉さんは厨房に向かった。

しばらくすると、ハイボールとホッピーが運ばれて来た。突き出しは、ナスの煮浸し。

清水と石川は乾杯した。

「清水さん。山下達総務課の若い衆と飲み会らしいですよ」

「知ってる。さっき、タクシーの中から見えてた。だいたい、総務課は業務部が稼いできたお金を給料としてもらってるんだから、もっと検査課も地位が向上していいはずだ!給料泥棒めっ」

清水はホッピーをぐいっと呷った。

「清水さん。酷い偏見ですね。総務課がいるから、我々の勤務時間を作り、計算してるのですから」

「石川、お前、やけに総務課の肩を持つな。来月から、総務課に飛ばしてもいいんだぞ」

石川は突き出しを箸でつつきながら、

「それだけは、ご勘弁を」

「もしかして、総務課の女の子を狙っているのか?」

石川は白状した。総務課のある女の子が気になる事を。

すると、大将がカセットコンロと鍋を運んできた。

モツ鍋セットだ。

「石川、そんな事はどうでもいいけど、ここのモツ鍋最高だぞ。いつか、その女の子をここに連れて来ればいい」


2人は、鍋が煮上がるまで酒のお代わりを飲んでいた。

「そろそろだ」

清水が蓋を開けると、ニラが山盛りのモツ鍋が完成した。清水は石川の取り皿にモツをたっぷり乗せた。

「食ってみろ!」

石川は、フーフーしてから、白いモツを口に運んだ。

「あ、溶けた」

「だろ?」

「清水さん、めちゃくちゃ美味しいじゃ無いですか〜」

「オレは九州出身だから、モツ鍋にはうるさいんだけども、夜明けのモツ鍋は認めてるよ。25歳でこのモツ鍋食べられるなんて、余程の呑兵衛じゃないと、見つけられないからな。お前はラッキーだ」

石川は夢中でモツ鍋を食べている。

「お姉さん、ちょっと」

「はい、お伺いします」

「いつもの」

「かしこまりました。高い方で?」

「うん」

「清水さん、何を注文したんですか?」

「赤ワイン」

「清水さんが赤ワイン?」

「石川、失敬だな。まるで、オレにワインが似合わない様ないい方しやがって、ねぇ大将」

大将はにこやかに、ワインを運んで来た。

「ここのワイン効くんだから」

「お客様、うちの高級ワインは効きますよ」

「石川、お前も飲むか?少し飲んだだけで、足腰立たなくなるよ」

「清水さん、この前3本飲んでいらしたじゃないですか?」

「3本?」

清水は飲んだ事を忘れていた。石川のグラスに高級ワインを注いだ。

「うわっ、これ酔いますね」

「駄目だよ、1軒目で酔っちゃ。次、あるんだから」

「え、明日は水曜日なのに梯子酒ですか?」

「悪い?」

「い、いえ。僕は嬉しいですが」

「なら、早くモツ鍋食っちゃえ。次はちょっと歩くよ」

「分かりました」

「大将、いかほど?」

「はいっ、12500円になります」

清水は支払いを済ませると、2人して店を出た。

「ちょっと歩くって、キツくないすか?」

「ここだよ!」

「え?隣じゃないですか!」

「ここよ、豚足なら大番に限る」

2人は、おでんの大番の暖簾をくぐった。

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