第13話 正義の賭け
項覇の軍勢は西方諸氏に北伐帰りの兵を加え、一万まで膨らんだ。
冒輝との決戦に挑むに当たり、項覇は劉堅から計略を授かる。
一つは民草を西へ強制移住させること。現地での食料調達を絶つ焦土作戦。
二つは各部族の少数部隊を散漫に配置し奇襲を仕掛け続ける縦深防御。
食料を絶つことは大きな効果を上げた。冒輝が北方王都を占拠した時は、王都に巣食うゴミムシのような官僚が食料を手配したが、管轄外の西方へ食料を送る能力に欠けた。クソの中のウジは外の世界でハエのように飛ぶことすらできない。
嘉皇后にすれば、王都をわが物にできれば目標は成ったのだ。西方進出にさほど興味はなく食料を支援はのらくらと気持ちばかりを送り届けた。
冒輝にしても支援を当てにしたわけでなく、食料は現地調達を前提で挑んでいた。膨らむ軍勢、騎馬を持たぬ兵の進軍の遅さを頭では知っていても、理解はしていなかった。食料の不足は、蛮族ではない兵たちをも悪逆非道へ変えてゆく西方の地は北方よりも手ひどく焼かれ侵される。
冒輝にとって西方の軍は、厭戦感あふれる様子が脳に刷り込まれていた。自分の土地が焼かれるときに惰弱な者でも精強な戦士になるのである。
西の皆は項覇の策に不満を持つ。当然である万の軍の八割は西方の戦士である。仲間の土地が焼かれ各個に撃破されるのを眺め続けているのである。
項覇は不満の頂点を見極め決断をする。
北方の冒輝の暴虐は、故郷の賊、西方の海賊と同様の悪である。
決戦に当たり檄を飛ばす。
「人の持つ命の数は平等なれどその価値は不平等である。冒輝の命に価値は無くば滅する他なし。オラが命はみなと同じく一つこれをこの決戦に賭ける」
決戦は平野である。西方部族もまた騎兵を至上としている。
項覇に引く気なし、西方部族も引く場所なし、冒輝に至っては進む以外に生きる道なし。
地獄の幕開けである。
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