第11話 天を翔ける

 西方諸氏は、中原の実権を虎視眈々と狙っている。続く北伐は明らかに王の力を弱めており。反旗の錦、劉尚は手元にあるのである。

 西方は諸氏とあるだけに取りまとめる盟がいない状況であり、旗があれどもそれを振れるかは怪しく、劉尚に力を持たさず操れる状態にしておけば誰もが機会があると思っていた。

 項覇が西方南部に流れ込むまでは。


 西方の諸氏は結局、主体に欠けていたと言わざるを得ない、盟約を誓い合う言葉は勇ましいが、実ることはない。

 西方諸氏の軍勢が加わる王軍で、北伐で勝ちきれない以上、西方の力だけで北の蛮族に抗し、王権を継承できるなど妄想ですら烏滸がましい話であった。

 そもそも、王の北伐の命令を拒むことが出来ぬ小物という自覚がないのだ。


 王が創った平和に一番呆けている地域であった。北伐での厭戦感こそあれ、戦禍の火の粉を被ることなく長い時を経たのだ。戦は外で行うものという意識があった。

 また、項覇個人の武勇を低く見積もり、奇襲でのみ勝利と集団戦闘で群れる様子は、蟻のようであり、我らが振るう劉の龍たりえる西方騎馬軍に立ち向かうのは、竜の鬚を蟻が狙うようなものとの認識である。


 項覇は竹を割るように進み、海賊を取りまとめる長はあっけなく首を落とした。

 この劉堅による西方侵略とも言える行動に対して、西方諸氏はまったくまとまりを欠いた。

 西方の諸氏は北伐の命により多くの将兵が離れていたこと。

 海賊行為は黙認すれども、是とはしていなかったこと。

 劉堅に劉尚、王の血に対して戦を始める根性をだれも持ち合わせてはいなかった。

 さらに、北伐中の王の死が重なり混乱が続いた。


 項覇は止まらない。賊を滅したことで威を示し、かつ正当な王権の後ろ盾の上に項覇の来るもの拒まずの姿勢は、西方の長の独りを巻き込み、二人を抱えた時点で体勢は決した。

 北伐の将兵が戻ったとき、項覇の軍を軸に一体と成って当らねば、北蛮の巨星たる冒輝に対抗する術がないと危機感を持つものが多数居たことも追い風として働いた。


 西方は項覇が実権を握り、劉尚が旗となった。

 王なき世の三方の天の一つを、項覇が握ったのである。


 項覇は、北の巨星と謳われる冒輝と激突することになる。

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