第5話 軋轢

 南蛮での項覇は人気が高く、その手勢の多くが南蛮で官吏となった。このことは、劉堅にとって力と枷となった。


 流れ者の劉堅は一人孤独に勢力を築いていた。ゆえに自由に振舞えた、独裁である。

 劉堅が師と仰ぐ者、剛力の将、智謀の士、数々の配下客将は、王を顕わすこの一字をたよりに、自らが教えを請い、膝をつき、時に力を示して集めたものだ。

 項覇との出会いにしても、劉堅自身が出向いたものである。


 南方の街は発展の途上であり、版図を広げるほどに、人が不足した。正確には人が土地に縛られており、兵役や役務などの税として調達する他なかった。

 そんな中、一声で千を動かす項覇は大いに魅力的であった。


 劉堅が項覇に求めた役割は、農耕地を広げ、硫黄に木材の生産などの開拓者としての労役を期待してのもので、南蛮に兵を率いさせ、将として扱ったのは方便であった。

 お目付けの兵は無駄な戦闘で人を減らさぬようにする為のものであったが、いまでは項覇の派閥の一部となってしまっている。


 求めた役割以上の働きは、劉堅の独裁に口を出す厄介者の一面をもってゆく。

 

 項覇は自身の学の無さを恥じることはあれど、他人がどう思うかは気にしない。また生来、自身が頂点以外の立場であったことがなく、劉堅に直接ぶしつけな質問をすることは多かった。

 劉堅、項覇が昵懇じっこんの仲であろうとも、劉堅配下の者たちとの親交が深まることは無かった。

 項覇は来るものは拒まないが、劉堅配下の知識層の中に入りたいとも思わなかった。

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