第3話 愛への一矢

☆(一ノ瀬ヤマキ)サイド☆


鴨川佐奈子に再会した。

一体誰なのかと言われたら日本中で有名なアイドルだった。

そして俺にとっては陰キャっぽい同級生であった。


元はこの様な感じで活動的ではない。

なのにこんなに元気になっているとは何というか。

本当に時間ってのは全てが変わるものだなって思う。


「イッチー」

「.....何だ?」

「今日はお弁当を作ってきたから一緒に食べよう」

「は!?」


クラスメイトが「あぁ?」という感じで向いてくる。

無茶苦茶じゃねぇか!?

俺なんかにお弁当かよ!!!!?

それもお前。

日本中で有名だったアイドルの!?


「イッチー。はい」

「.....あ、うん.....っていうかお前料理できるの?」

「一応はできるよ?家事も全部」

「そうなの!?」


俺は唖然としながら周りの妬みだらけの男子を見て顔を引き攣らせる。

須賀が「落ち着けお前ら」と言ってくれているのが幸いだな。

思いながら俺は佐奈子からお弁当を受け取る。

そして「イッチー。中庭に行こう」とニコニコしてから佐奈子は向いてくる。

俺はその顔を見ながら少しだけ赤面する。


「.....あ、ああ」

「よっしゃ。じゃあ行こう」


そして俺達は移動を開始した。

俺は須賀に「良いか?」と許可を貰ってからそのまま教室から出て行く。

それから中庭にやって来た。

須賀に申し訳ないが助かった。


「イッチー。今日のお弁当は色々と手作りだよ。幕の内みたいな」

「マジか?時間がかかったんじゃ.....」

「それは確かにね。でも私はイッチーの為だって思ったから」

「そうか?.....なら良いんだが.....」


何か悍ましい感じがするが気のせいか?

俺は考えながら弁当を開ける。

するとそこにはタコさんウィンナーとか卵焼きとかハンバーグとか詰まっていた。

唖然としながら「やっぱりこれ時間が.....」と言うと佐奈子は横で欠伸をする。

俺に見られて赤面した。


「えへへ。朝の5時から作ったから」

「え?!お前本当に大丈夫か!?」

「私は全然構わないよ。.....全てはイッチーの為だって思ったから」

「いやそうは言っても.....眠たそうだが」

「イッチーの為だから全然平気」


ニコッとしながら佐奈子は俺を見る。

本当に可愛くなったよなコイツ。

あの陰キャとは大違いだ。

考えながら俺は佐奈子を見てから手を合わせる。

そして食べは.....何だこれめっちゃウメェ!?


「佐奈子.....お前本当に一応か?家庭料理.....」

「一応だよ?こんなものちゃっちゃとすればあっという間」

「.....あっという間って.....出汁とか.....美味いんだが」

「まあ鍛えたからねぇ。色々と」


(俺の為に.....)と思いながら俺は赤くなる。

すると佐奈子は別の弁当を取り出す。

だが中身はレトルトだった。

俺は「?」を浮かべる。

そして佐奈子を見る。


「え?お前はレトルトなのか?」

「私はどうでも良いよ。食事なんて。.....私は貴方に食べて欲しいから。.....色々と」

「.....それじゃ体調を崩すぞお前.....」

「知ってる?アイドルって質素な食事なんだよ。基本は。まあ幾つか例外は必ずあるかもだけど私は質素で良いの」

「あまり聞きたくない反対側の事情だな」

「失望したかもだけどそれが現実だから」


そして俺を見てくる佐奈子。

俺はその顔を見ながら頬を掻く。

それから「佐奈子。お前も食べろ」と食材を渡した。

佐奈子は驚きながら俺を見てくる。


「まあレトルトじゃ味っけがないから」

「.....あはは。優しいね。イッチーはやっぱり」

「いやそうだろ。俺は嫌だな。レトルトだけってのは」

「ああ。家庭の事情の.....事かな」

「.....」


母親も父親も遊び人で忙しい人間だった。

だから俺の家は何というか貧乏じゃないけど俺は常に1人だった。

愛情を知らないのだ。

俺は.....レトルト食品しか食べてなかったから。


「.....そんな時にお前に再会できるとはな」

「これも運命だね。.....ウンウン」

「.....」


正直彼女に裏切られて.....家庭もグチャグチャでその中で佐奈子は一筋の光だった。

俺はそんな彼女の表情を見ながら柔和になる。

それから俺は中庭にあるイチョウの木とかを見てみる。

すると佐奈子はかなり複雑な顔をしながら「それはそうと.....イッチーも大変だったね」と俺の手に手を添えて言ってくる。

俺はドキッとしながら「そうだな。色々あったよ」とだけ答えた。


「.....でもこれからは心配しないで。私が側に居るから。永遠に.....ね」

「いやいやお前。永遠って怖いっつーの」

「?.....私は事実を言ったまでだよ?怖がる必要はないよ.....」

「.....」


時折怖いんだけど。

この部分を除いたら彼女はとても良い子だと思う。

考えながら俺は苦笑いを浮かべながら佐奈子を見る。

俺に対して全開の笑顔だが佐奈子の目は笑ってない様な気がする。

気のせい.....か?

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