退獣
釣ール
銃を構えたくなるほど苛立たせてくれる人間達に我ら人間も決して攻撃することはしない
アオーンと臆病に鳴くチャイシール。
内弁慶にもならず、そしてこちらにも心を開くことなくはたちのつどいを迎える前に亡くなった愛犬。
「友よ、君は何故先に旅立ったのか。」
「俺も含めて生きる必要がない人間って腐る程いる気がするのだ。
尊厳を奪われた以上、お前達が見せつける幸せなんていわば先人の二次創作だろう?
似た人間を囲って集落を作りたくなるのは俺にもよくわかる。
俗に言う
けど…それをした後でも…ここに空いちまった穴は塞がりはしない。
成人の思い出にエッセンスが欲しかったってお前ら言ってただろう?
これはそのために蓄えた技術だ。」
若くてエゴが膨らんだ人間の悲鳴で清算しないと前に進めない気がした。
勿論それはこいつらが先に手を出したから実行できたに過ぎない。
先にこちらが手を出していた場合は落し物として仕込むつもりだった。
拾いたくなるのは幸せという都合のいいご馳走とメリットだからだ。
どの世代も、こうやって洗脳されている。
それを利用して失敗しても嘲笑う人生も悪くないと思っていたのに。
馬鹿だねえあいつらは!
「おっと。」
またあの夢だ。
潜疎は過去に清算した筈の私刑を何度も夢に見る。
やられる方がトラウマになるらしいのに、こっちが悪夢を見るとは。
あれか。
よく復習代行業者が抹殺したターゲットが夢に出て殺そうとするってやつ。
「シケてんなあ。
互いに存命中なんだからこんなセコイやり方しなくてもダメージは受けるのに。」
終の住処として決めた一軒家。
同棲している相手にも確か言われたか。
「どうせすぐに飽きる。」
よく理解されている。
その相手ともずっと同棲するつもりはなく、十年かもっと間を置いて関係を大切にするつもりだ。
離れるも繋がるも自由。
他の二十一とはあまり健全な人生を歩んでないと馬鹿にされてそうだ。
今はそんなこと気にしていない。
この人生を決意するのにも随分中学から高校時代まで悩んだ。
人は一人では生きていけない。
しかし、人は独りで死んでいく。
同棲相手は生き様を、潜疎は死に様を選んだ。
ただ、それだけのこと。
一応ここで死んでもいいつもりだった。
けれど選択肢は多いに越したことはない。
互いにギャンブルはしたくないから、結婚なんてするつもりはなくひたすら恋愛だけ終わらせた。
若くして互いに子供は身篭れず、互いに人間関係でダメージを追い、そして人間関係を清算した。
出会ったキッカケも喫煙可能な店だったから高校時代入れなくて、やっと適性年齢になってメニューを頼んでいたら隣に同棲相手となる人がいた。
そして今がある。
最初に話したテーマはなんだったのだろう。
「産まれで決めさせられているのを後で変えられないのに随分人間って時代遅れで救いがないよね。」
「俺も同感。」
これぐらいの似た者同士なら何もないわけがなかった。
その後はなんとか無茶して慣れない仕事も多く入れた。
同棲相手は金銭の負担は禁じたのに…何故かそこまで手伝ってくれた。
「異性だからって変な配慮したら承知しない。
こっちはそういう連中を崩壊させた。
それだけは忘れないでほしい。」
そのまま刀で斬られそうな雰囲気だったから結局二人で協力することになった。
欲しいものは、時間がかかっても手に入れてみせる。
それが潜疎達の生きる目標だった。
そしてやっと手に入れた中古ではあるもののマイホーム。
たった一人、潜疎は大の字で寝ていた。
流石にサブで労働しないと色々と面倒なのでリモートワークとライフハック本を完成させることに集中している。
同棲相手とは特に何かあったわけではなく、お気に入りの男性が出来たとしばらくやってくることはないことを伝えられた。
同棲相手にとって潜疎は終の住処の一つでしかない。
逆に潜疎はそんな同棲相手の行動力にいつも助けられている。
しかし!
今まで人間相手に勝ってしまったからか、重要なことが抜けていた。
アライグマに勝てない。
人間相手に手こずった経験を乗り越えたからこれからも生きていけると思ったら次はこれだ。
日本全国に広まった外来種。
アニメに感動してやってきてしまった不勉強の賜物。
本当は動植物相手に攻撃なんてしたくなかった。
だがアライグマよ!
ラ…アニメの題材者よ!
その家は、今の主人として俺がいる。
潜疎はやっと見つかった害獣対策チームと共同でアライグマを追い出している!
「イタチじゃなくてよかったですね。」
「イタチだとしても俺はこの家を守るだけですよ。」
「わざわざ手伝ってくれるだけありますね。
変わった人だ。」
対策チームとは過去話をし、アライグマと戦っている際に打ち解けていった。
知り合いは出来るだけこの場所では作りたくなかったが、相当なことだ。
「いずれ屋根裏よりもいい場所にであえ…そんなはずは無いか。
人間が怖いことを植え付けておこう。
その方がアライグマのためになる。」
綺麗事のつもりではなく自然と別れを告げるために害獣が嫌がる音だけをふんだんに集めた音響チップをこっそりアライグマに仕掛けておいた。
場所さえわかればすぐに噛みちぎって捨てられる場所にしかけ、闘争の証とあまり器用な形ではないやり方でアライグマを勝者と認めた。
やっと自然との戦いが終わり、潜疎は終わることのない人間社会との暮らしを考えていくのだった。
「制約さえなければ…もっと身近にいられたな、俺たち。
このライフハック本に今日のことも記しておく。
彼女のことだ。
新しい恋をとっくにしていて、また悩み、乗り越える。
ここか、次の場所が俺たちの終わりなのかもしれない。
その時はまた、知らせるから。」
自分達もフィールドは違うがサバンナで生きているのかもしれない。
最終的には本物の自然と同化してしまうのかも。
「だって俺たちは…共同体を持たないからなあ!」
ーどこか遠くで
あれ?
彼の声?
井戸の中で共同体への批判をしただけなのに。
互いに自由を約束したのはいいものの、何も全く連絡してこないって配慮までしなくていいのに。
妬いてるなら素直に言えば…いや、やめよう。
そういえば私もいい性格の人間じゃなかった。
だって家の前に、イタチがいるのだから。
退獣 釣ール @pixixy1O
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