第27話 ブロック分け
「よくぞ来た、若人よ! 今から一年生のシードの順位を決める! 参加希望者は前の受付に参加報告の旨を申し立てるように。」
ドームの中にはすでに大勢の人が入っており、観客席には上級生たちが座っている。どうやらかなり盛り上がっているようだ。昼食を片手に見ている人たちもおり、きっと毎年の恒例行事なのだろう。早く自分もあっち側に回りたいものだ。
(…誰が優勝するか、賭けをやっているのか。いいご身分だな、おい。…俺も自分に賭けられないかな?)
自分が他人を選ぶのは不味い気がするが、自分が自分を選ぶのは問題ないような気がする。優勝するには運だけでは無理なのだから。
「じゃあ、僕は観客席で皆の活躍を見守ってるよー。」
シード争いに参加しないテオがそう言って階段の方へ行こうとする。土壇場で考えを変える気はないようだ。
「あっ、ちょっと待て。もし賭けができるなら俺に賭けておいてくれないか、ラーウス王国金貨千枚ほど。」
「いいよー、太っ腹だね。皆はどうする?」
「私は賭けなんぞせん。八百長を疑われたくないからな。」
「俺もやめとくよ。そんなお金持ってないし。」
「分かったー。皆、頑張ってねー。」
エルたちはテオと別れて列に並ぶが、見たところ大勢が参加するようだ。長い行列ができていた。
(…今日中に終わるのか? これは。)
「なぁ、新入生の生徒数って何人なんだ?」
「きっちり150人らしいよ。」
「多いな。」
(半分参戦しても75人。…ヤバすぎる。)
すでにエルは乗り気ではなくなっていた。どう考えても長丁場になる。これなら月末のシード争いに参加した方がいいのではないか?、そんな考えが頭の中を占めてくる。最初にシードになるメリットが少なすぎる。
「――はい、では次の方、学生証を出してください。」
とうとう順番が回ってきた。ポケットから学生証を取り出して渡す。
(あー、今日の夜ご飯は外にでも食べに行くかなぁ。外出届とか出さないといけないらしいけど、出さなくていいだろ。シードの特権だ。)
エルはこんな風に思っているが、外出届は例外なく全員出さないといけないという校則になっている。もっとも知っていたところで出す気はなかったが。
「はい、こちらお返ししますね。開始までドーム内でお待ちください。」
「では、次の方――」
受付が終わり、ノアとジムを待っているとゴッドステラたちがこっちに向かってくるのに気づいた。
「エル、もう受付は済ませましたか?」
「ああ、済ませたぞ。ゴッドステラは?」
「はい、私たちもすでに済ませました。」
「ん? アイリーンも出るのか?」
「そうよ。悪い?」
「いや、悪いなんて一言も言ってないだろ。」
(こいつの喧嘩腰は何とかならんのか。少なくとも俺は敵対するつもりなんてないのに。)
アイリーンがそっぽを向いて、話したくないオーラを出す。それを見てエルの頬が引きつる。
(この女、やっぱ無理だわ。普通に仲良くできない。)
ここまで仲良くしない意思を見せられたら、こちらから歩み寄る気もなくなる。せめて学院にいる間はそういうつまらない事は忘れようとしていたというのに。所詮、ラーウス王国とスペス、同じ世界に存在する時点で無理だったのだ。
だが、意外にもそんなアイリーンを窘めたのはゴッドステラだった。
「アイ、そういう言い方は良くないと思いますよ。同じ国の同志なのですから、仲良くしましょう。たとえできないのだとしても、そういう素振りは見せてはいけません。」
「…分かったわ。」
渋々頷くアイリーン。どうやら女性陣は女性陣で仲を深めたようだ。二人の親しさが見て取れる。
「それでおそらくエルとの顔合わせは初めてだと思うのですが、こちらの女性はルーナ・フォン・サファリと言います。アイリーンの親友です。現地のテストで受かったみたいです。」
「は、初めまして。」
藍色のショートカットの小柄な女子だ。緊張しているのか、少しおどおどしている様子が微笑ましくなる。どっかの赤毛のような自信満々な様子よりもよっぽど好ましい。
(…なるほど。こいつがアイリーンが言ってたやつか。でも現地の試験で受かるってことはよっぽど賢いんだな。)
オルトゥス学院には記念受験も含めて各国から大勢の受験生がやってくる。そのため、倍率が恐ろしく高いのだ。この少女は見た目と反して、実技も得意なのかもしれない。
「初めまして、ルーナ。俺の名はエルグランド・フォン・ハーブルルクス、気軽にエルって呼んでくれていいぞ?」
「ふぇぇ!?」
「真に受けなくていいわよ、ルーナ。適当でいいのよ、適当で。」
(この赤毛。どうしてあんな貴族の鏡みたいな人から産まれてこうなるんだ? 突然変異か?)
フェーベル家は確か男子がいなかったはず。将来的にはアイリーンが家を継ぐはずだ。それなのにこの対応ではフェーベル家の未来も暗いだろう。何か信念があって喧嘩を売ってるなら理解できるが、ただ気に入らないからという理由で喧嘩を売っているなら、衰退の未来も遠くない。ただでさえ、フェーベル家は軍部を統括しているのだ。父ともいつかは衝突するだろう。
(…ま、こいつがどうなろうと俺の知ったことじゃないがな。せいぜい気張れ。)
「ルーナはシード争いに参加するのか?」
「い、いいえ、私はしません。」
「ふーん、そうなのか。」
(なら女子はこの二人だけか。)
そしてエルたちが話している所にジムとノアも合流する。これでどうやらラーウス王国の参加希望者が全員揃ったようである。
「あー、緊張する。ジムはどうだ?」
「緊張するに決まってるだろう。」
「エルは?」
「ん? あんまりしてないかな?」
「肝が太いんだな。」
「ま、死ぬわけじゃないしな。気軽にいこうぜ。」
「ふんっ、もうちょっとやる気出しなさいよ。そんなんじゃ、他国に舐められるわ。」
「…。」
もはや何も言うまい。下手に刺激すれば爆発するだけだ。
「ハァ、まったく。アイは…。」
ゴッドステラが額に手を当て、溜息をつく。補佐役がこの調子じゃ、どっちが補佐役か分からなくなってくる。正直、もっと優秀な人はいなかったのかと思ってしまう。これではハーブルルクスに早晩喰われてしまうだろう。もっとも自分には関係ないが。
「さーて皆さん、お待たせした。全員のエントリーが完了した。これから四か所に分けて、予選を行う。本選に進めるのは各ブロックの上位三名だ。」
エルたちに漂う微妙な雰囲気を一掃するかのように声がドームに響き渡る。
(声でっけー。よくそんなに出るな。普通無理だろ。)
「前に張り出した紙から自分の名前を見つけて、各ブロックへ向かってほしい。諸君らの健闘を祈る!」
「じゃあ、見に行くか。」
「ああ。」
「できれば、ラーウス王国出身の奴とはぶつかりたくないな。」
「確かにそうですね。考慮されていそうな気もしますけど。」
前の紙を見に行くと、エルがAブロック、ノアとアイリーンがBブロック、ジムがCブロック、そしてDブロックにゴッドステラという分けられ方だった。
(こいつらと違うブロックか。ゴッドステラと分かれたのは良かった。)
予選で戦うのと本選で戦うのは、結果が同じだったとしても周囲に与える影響が違いすぎる。本選で負けたということであれば、ゴッドステラの面目も立つだろう。
(さて、少し暴れさせてもらいますかね。)
世界はすぐに思い知る、自身の広きを。国内では一番でも大陸規模では一番ではない。それが今日証明されるのだ。
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