終章

 あれから1年が過ぎていた。


「お疲れ様。ずいぶんと精を出しているねえ。お昼を持ってきたから休憩して食事にしないかい?」

「ありがとうございます、お義母さん。エレシナも体調はどうだい?」

「問題ない。ない。レーヴェンは本当に心配性なんだから」


 ガルガディアを離れた俺達は、エレシナの故郷に戻り結婚をした。器のホムンクルスと融合した彼女の手足はすぐに体に馴染み、今では問題なく飛び跳ねている。だが、それが俺には心配の種なのだが……。

 今、彼女の体にはもう一つの変化が現れている。少し膨らんだエレシナのお腹の中には俺達の子供が育っているのだ。


「しっかし、我が娘ながら驚きだねえ。魔法学術院のジジイどもとケンカをして国を飛び出したと思ったら、こんないい男連れて返ってくるなんてさ」

「言い方が下品なのじゃ! あっ」

「まだその変な言葉遣いが抜けないねえ。頭の硬いジジイどもに対抗するための術だとか言ってたけど、もうあんなところとは関係ないんだからさ。それにしてもレーヴェン君が畑を継いでくれてよかったよ。あの人が亡くなって、女手一つじゃ維持できないと放置していたところを蘇らせてくれてさ。ところで畑仕事はどうだい?」

「体を動かすのには自信があったんだけど、正直こんなに悪戦苦闘するとは思っていなかったかな? でも土いじりは楽しい。敵と戦っているよりよっぽど楽しいですね」


 俺はガルガディア城から持ち帰った宝石類などを換金して一財産を得た。

(崩壊する城の中でピックアップするのは少々大変だったが、そこは当然シーフの本領発揮だ)

 その金でエレシナのお父さんが残した畑をもう一度蘇らせ、農作業で生計を立てている。エレシナももう魔法には関わっておらず、俺の手助けをしてくれている。俺達はこの地でゆったりとスローライフを楽しんでいるわけだ。


 そうそう、グレンとミレアもこの国に引っ越している。学のあるミレアは教師として子ども達に読み書きを教えているし、グレンはその体格を街を作る土木の仕事に活かしている。

 二人の新婚生活も順調のようだが、この前ミレアに「うちもそろそろ子供が欲しいのだが、どうすればいのか」と聞かれて焦ったな。グレンにはしっかりやるように発破をかけておいたが。


「エレシナが作ったこの燻製美味しいじゃないか」

「レーヴェンに教えてもらった鹿肉の燻製だかんね」


 幸せなこの光景を眺めていると、ふと父の最後の言葉を思い出した。


『アラハルトの血を絶やすな。どこか遠い土地で幸せに暮らすのだ』


 俺は勝手に復讐などと息巻いていたが、それは両親が望んでいたことなどではなかった。

 膨らみを帯びたエレシナのお腹を優しく撫でる。


 どうやら父の遺言は守れそうだ。

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