第16話:レーヴェン・アラハルト
ガルガディア城ホール。
きらびやかな建物の中には人の姿はおろか魔物の姿もなく、ひっそりと静まり返っていた。その理由は明白だ。ここにたどり着くものは全てを奪われるからだ。
エレシナ達は静かに腰を下ろし、リヒトの語りを待った。
「俺の父は英雄だった。勇敢な父の先導による無敵の兵団が外敵から国を守り、その働きを称えた温厚な王は、戦士だった父に特例で貴族の地位を与えた。だが、まだまだガキだった俺は気が付かなかったんだ。隣国からの魔の手が密かに忍び寄っていた事を」
リヒトは一度静かに目をつぶり、そして続ける。
「金に汚い大臣達を内通者としただけではなく、国民達にも罠を仕掛けていたようだ。甘い言葉で近づいては契約を結び、気づけば他国に大きな借金をこしらえる者が続出していたらしい」
「調略というものか。どこにでも他所のものまで奪おうとする欲の皮が突っ張った奴らがおるわい」
「国民の方を向いていた王もそれらに対抗する策や、他国との政治的なやり取りには疎かった。そして隣国の後ろ盾で操られていた大臣によりクーデターが起き、国は崩壊。父も暴徒に殺されたんだ」
「それでお主はどうなったのじゃ?」
「遠い国に逃げた俺は復讐を誓い戦闘の腕を磨いた。リヒトと言う名前はその時つけたものだ。成長した俺は傭兵として働きながら奇妙な噂を聞いた。遠方の強国デンゼ王国の首都ガルガディアが一夜にして消滅したと。それを聞いた俺はこれが本当なら復習に使えるのではと思ったんだ」
人や魔物の気配がしない城内だが常に大きなオーラは感じている。リヒトはもう一度周囲を警戒して、問題がないことを確認してから続けた。
「ここに来る前に俺はもう一度祖国を訪れた。そこには美しかった町並みはなく、富むものも貧しき者も荒み切っていた。街は汚れ、騙し合い、欲を満たすことしか考えていない者達。俺はこんな国は滅びてしまった方がいいと思ったんだ」
「そしてこの旅に出たわけですね」
「ああ。だが偶然出会ったみんなと共に旅をする事によって閉じ込めていた俺の心は外に出てしまった。厳しいこの旅は、俺にとっては本当に楽しいものだったんだ。そして多くの者が犠牲になったガルガディアの真実を知ってしまったら、俺にそれをすることはもうできない。俺は両親の仇も取れない臆病者だ」
リヒトはサイクロプスの悲しい姿を思い出す。エレシナは肩を落とすリヒトにそっと触手を差し伸べた。
「臆病者でよいではないか。本当の魔神になるよりはマシじゃ。わしも同じじゃ。知識の先にあの悲劇が待っておるならば、もう魔法を研究することが怖くなってしまったのじゃ」
リヒトはそっとエレシナの小さな体を抱きしめた。
その二人の姿をまっすぐに見ながらミレアは口を開いた。
「私とグレンの目的は果たしました。リヒトさんとエレシナさんの目的としていたものも役目を果たしました。それで私達はこの旅をどう終わらせましょう?」
「呪いを解きたいと思っている。この街にかけられた呪いを」
「やはりリヒトも感じておったか、このガルガディアの異常を」
「呪いのドームがこの地を包んでいるからこそ、外に出ることのできない魂がさまよい続けているのだと思っている。それは全てを我がものにせんとする強欲の呪い。その呪いの主は狂王ベルゼ!」
グレンはミレアと目を合わせ、意思を通わせて互いに頷く。
「ここまで来たんだ。我々も最後まで付き合うぞい」
「ありがとう。だが呪いを解く前にやっておきたいことがある。エレシナのその手足を元に戻したい」
リヒトは立ち上がり、ホールの中央まで進み、そして振り返ってみんなに目を向ける。
「王立研究施設に器のみのホムンクルスが眠っているんだが、その手足をエレシナに融合させられないかと思っている。エレシナはクラーケンのマナを吸い込んだ時に、クラーケンの存在が手足にのみ強く出て触手になっている。だからホムンクルスで、もう一度同じことをすれば上手くいくんじゃないかと思ったんだ。ミレアのマナを操る驚異的な力があれば成功率も上がるんじゃないかと思う」
「やってみる価値はありそうです。やりましょうエレシナさん!」
「うむ。しかしなぜ急にそんなことを思いついたのじゃ?」
「未来のためだ。外の世界ではその手足では何かと問題があるだろう」
リヒトはそこで一旦言葉を止め、ゆっくりとエレシナの前まで歩み寄り、続ける。
「最初からだ。エレシナといると俺の心が安らぐ。エレシナがいたからこそ俺は道を間違えなくて済んだんだ。だから、すべてが終わってこの地を離れたら、俺と一緒になって欲しい!」
「ほ、本当にお主は変わっておるな。そんなことを言われたのは初めてじゃ。わしもリヒトといると勇気が出るのじゃ。これからも一緒にいたい。だからホムンクルスの融合をやってみるのじゃ」
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