第15話:サイクロプス2
「うおおぉぉぉぉ!」
グレンは巨大な槍を構え、サイクロプスをめがけて一直線に突進を仕掛ける。
明確な意識はないのであろう。サイクロプスは反射的に間合いに入ってきた魂に反応し、大きな腕を振り降ろす。その行動を予見していたグレンは大槍で剛腕をガードするも、その圧倒的なパワーの前に彼の巨体は吹き飛ばされる。
「走り込む角度から予想した、飛ばされる方向もリヒトの計算通りじゃったのう」
グレンの体はエレシナが作り出した大きな水の球体の中に包みこまれ、衝撃を殺すことに成功する。
一方、吹き飛ばされたグレンをよけて、背後から飛び出す影があった。その影こそリヒトだ。彼はサイクロプスが振り下ろした腕に飛び乗ると、驚異的な運動神経でよじ登り、巨人の肩口に手をかける。
だが、それに気づいたサイクロプスは、体や腕を大きく揺らして彼を振り落とそうと試みる。
「2度はチャンスがないのは分かってるぜ!」
サイクロプスの腕にしっかりとしがみ付き、体が上へ下へと振り回されようが懸命に耐え忍ぶ。そしてサイクロプスの動きに隙ができた瞬間を狙って上へと這い上がる。
まさに頭に手が届きそうになった瞬間、今度は逆の手が彼を捕まえようと襲いかかる。
「うりゃあ!」
リヒトは巨人の肩口に足をかけ、真上にジャンプをして大きな手から逃れる。そして巨人の頭を掴み、振り落とされるのを防ぐ。
「リヒト! 最後の頑張りどころじゃぞ!」
リヒトは巨人の頭の上で体制を変え、両足で大きな頭をはさんで固定する。そしてそこから両手で剣を冓えたまま、下を覗き込むように半身を下ろし、赤く光る1つ目を目指す。その剣は……届いた!
「グオオォォォォォォ!」
赤い穴の中に剣をつきこまれたサイクロプスは悶絶して体制を崩しそうになるが、驚異的な踏ん張りを発揮して踏みとどまる。その時、リヒトが刺した剣が赤く輝き出した。
「これはマナを吸っている? そうか! この剣はもともと鎧の騎士から奪ったもの。この剣自身も魔物の一部でもある。だからマナを吸収しながら魔法剣として成長しているのか!」
斬! リヒトの剣がサイクロプスの目を破壊する。
断末魔のような声を上げ、地表に轟音と振動をもたらしながらサイクロプスは崩れ落ちた。リヒトは地面すれすれで剣を抜き、転がるように受け身を取って魔物から離れた。
「後は私が! エレシナさん、小さな水の玉を作って下さい! それをよりしろにして、マナを凝縮しながら取り出します!」
ミレアは横たわるサイクロプスの顔に手を置き、巨大な怪物のマナを吸収する。そのマナはあまりにも大きすぎて、ミレアの体では受けきれない。そこでエレシナが作った魔法の球体に吸い取ったマナを移していく。魔法の核ができれば後はそこにマナを圧縮して移していくだけだ。
少しでも手元が狂えば自分がマナを大量に吸い込んで、その身を破滅しかねない危険な術だが、ミレアは体を黄金に輝かせながらも、寸分の狂いもなくマナの移植を成し遂げていく。
「オオォォォォォ……」
サイクロプスは小さな声を上げるが、その行為を受け入れるかのように身動きひとつしない。そんな姿をリヒト達は静かに見守った。
やがて体内のマナの大部分が失われると、その身を維持できなくなったサイクロプスは青い光となって消滅した。
「……終わりました。これで彼等は苦しみから開放されたと思います」
地面には赤く輝く小さな珠が転がっていた。
リヒトはそれを手に取り小さく頷く。
「俺が探し求めていたものはこんな悲劇だった。これは偶然なのか運命なのか分からないが、みんなに出会わなければ俺がこれを行っていたかも知れない……。少し俺の話を聞いて欲しい。俺の本名はレーヴェン・アラハルト。偽名を使っていたのはアラハルトの名を汚す行いをする覚悟があったからだ。そのために俺はこのガルガディアに来た」
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