第14話:サイクロプス1

 岩盤を破り、地上まで吹き飛ばした大きな穴が爆発の凄まじさを物語っていた。

 多くの者が霧に消えた。それでも不幸なことに、高濃度のマナを接種してもなお死ねなかった者達の魂が集まり、サイクロプスとなった。それには明確な意志はなく、恨みや憎しみ等の負の感情のみが巨体を動かしていた。彼等を苦しみから開放しなくてはならない。

 サイクロプスは反射的に、侵入した4つの魂をめがけて鉄の棍棒を振り降ろす。


「うおお! 気をつけろ! こんなものに当たったらひとたまりもないぞ!」

「なんとか彼を倒して動けなくして下さい。私がマナを凝縮させて取り出し、彼等を苦しみから開放します」

「少し見ぬうちにミレアもずいぶんたくましくなったものじゃのう」

「何を言っておる。ミレアは昔からたくましいわい」

「あ、『様』がなくなった。何かあったな?」

「バ、バカな! 何もあるわけなかろう! 結婚の約束などしてないぞ、我は!」

「グレン危ない!よそ見をしないで!」


 サイクロプスが振り下ろした棍棒が岩を砕き、石つぶてとなり一行を襲う。

 それぞれが四方に力の限り走り抜けて、どうにか難を逃れる。


「危ねぇ。まずはあの鉄の棍棒をなんとかしないと中に入れないぞ」

「だったら遠隔からの攻撃でチャンスを掴むのじゃ! わしの水球弾で……」

「エレシナさん、それならば合体魔法といきましょう」


 エレシナが作り出す水の弾丸にミレアがマナを乗せると、魔法の水球の周りを白い光が包みこんだ。それをエレシナが弾丸としてサイクロプスの腕に放つ。


「グオオォォォォ!」


 サイクロプスの大きな手に魔法弾が着弾すると、少しえぐれたその部分から白く光る煙が吹き出した。


「死神との対戦で覚えたマナを吸収する魔法を込めてみました。彼等の防御層を無視して攻撃が入るのではと思いましたがうまくいきました」

「よし、俺達も続くぞグレン!」


 まずはリヒトが走り込み、腕の傷へ一太刀。間髪入れずに、動きを止めたその手にグレンの重槍の突進攻撃が炸裂する。


「ゴオオォォォォ」


 たまらずサイクロプスは鉄の棍棒を握る手を緩めると、それは大きな音を立て地面に転がった。だが、攻撃はそこで止まらない。ブンブンと剛腕を無造作に振り回す。


「離れるぞグレン。ヒットアンドアウェイだ」

「ひいひい……そういうのは苦手だわい」


 彼等が攻撃範囲から離れるとサイクロプスは一旦動きを止めた。そして頭にある1つ目の赤い光が何かを吸い込むように揺れ動き、光の強さを増していく。


「何か来るぞ!エレシナ、水のドームでバリアを張って皆んなを守ってくれ」

「任せるのじゃ!」

「それなら、私もマナを注入してエレシナさんの魔法を強化します」


 エレシナの周りにパーティーは集まり、水のドームの中に隠れる。ミレアはエレシナの背中に手を置き、自分のマナを注入して水の魔法を強化する。

 次の瞬間、サイプロクスはリヒト達をめがけて、赤く光る目から同じような赤い光の光線を照射する。

 その赤い光線はエレシナが作り出した水のドームの上を滑り、周囲に粒子となって散っていった。


「これは高濃度のマナのようです。まともに喰らえば体内のマナが暴走し、体が消滅するか魔物と化してしてしまうでしょう」

「あの1つ目でマナの出し入れを行って呼吸をしているのかもな。次はあそこをなんとかして潰したいところだが」

「わしの水球弾でもあの高さまでは届かんぞ」


 リヒトは2度屈伸運動をして体のバネを確かめる。


「俺がヤツの頭までよじ登り、あそこに剣を突き刺す」

「相変わらず無茶苦茶なことを言いよるわい。作戦を話せ! できることはなんでもするぞい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る