第13話:魔法反応研究所
※本章の内容にはダークな設定が含まれております。読む際にはご注意下さい
二人は併設された仮眠室で体を休めつつ資料を読み漁った。そして2日目の朝、リヒトはついに目的の資料を見つけた。
「あの教会前の大穴が空いていた場所が何だか分かったぞ! 魔法反応研究所という秘密裏の地下研究場だ。地下に潜らなきゃいけないような倫理に反したマナ研究を行っていたようだ。そこでのある実験が廃都化への原因になったのではと俺は推測しているんだが……。ん? どうしたんだエレシナ?」
「わしの方も発見があった。これには我々が知る常識とは異なることが書いておったのじゃ。強大なマナを秘めておるものは古代種の竜などと言われておるであろう? じゃが、圧倒的なマナを内包しておるのは人間なのじゃと書いておる」
「人間が? 俺は魔法なんか使えないし、魔道士が使う魔法だってドラゴンのブレスの比でもないだろう?」
「じゃが、実際は竜の個体数は激減し、人間が支配する世界になっておる。ここにはこう書いておる。マナの恩恵を頭脳や精神に使用した種族が人間であり、さらにマナの使用に優れたものが触媒などを介して魔法を扱うことができるが、それは人間が内包するマナのほんの一部なのだと」
「にわかには信じがたいが、異次元のマナ研究が進むデンゼ王国故に全くのデタラメとも思えないな」
リヒトは続ける。
「魔法反応研究所の続きだ。ガルガディアが崩壊した年に新型のマナ増幅装置なるものが開発されていたらしい。詳しいことは書かれていないが、抽出したマナを異なる魔法反応に変換してぶつけ合い、何十倍にも膨らませる技術らしい」
「反発し合う魔法を均衡してかけ続けるのかの? そこで発生する魔法エネルギーを更に取り込み増幅させていくと? そんなことは理論的にはできても、現実的に可能とは思えんがの?」
「だからこそ、失敗して街が崩壊したのではと思っている」
沈黙が流れた。二人は同時に同じことを想像したのだ。
街を滅ぼすほどのマナ増幅実験、倫理観の欠如した街、神に近づこうとしたホムンクルスの研究、自分たちの幸福のために魔物を大量に殺めた地下墓場、敗戦国からの非人道的な捕虜の扱い、そして最も巨大なマナを秘めているのは人間……。
決して確かめるまでは言葉に出せないその答えを求めて二人は立ち上がった。
「行ってみよう」
ドスン……ドスン……。
魔法反応研究所に近づくにつれて、その振動は大きくなった。大型の何かが歩くような振動音。
ほぼ跡形もなくなったその場所には、上空から薄っすらと光が差し込んでいる。岩陰の向こうは例の大穴が開いた場所、つまり魔法反応研究所の跡地だ。
「オオォォォォォ……」
そこには1体のモンスターがいた。施設の残骸である巨大な鉄の塊を棍棒のように持つ青色の巨人。その顔の部分には赤く光る目を思わせる大きな穴が空いており、そこから魔法のエネルギーをやり取りしているようだ。
その造形はまるで神話に出てくる1つ目の巨人、サイクロプスを思わせた。
「俺でも分かる。あれは1体ではない。幾人もの人間の魂が融合したもの……。こんなものが、こんなものが俺の求めていたものだったのか……」
*
3年前、魔法反応によるマナ増幅実験は失敗に終わった。人体実験に集められた捕虜達から抽出されたマナが巨大すぎたのだ。幾人もの人間から集められたマナは何百倍にも膨れ上がり大爆発を起こした。
上空へと吹き出た強烈なマナは人々を巻き込み、それを吸い込んだ生物はマナの過多で消滅、あるいは魔物と化した。生物と反応することで魔法暴走は更に加速し、次から次へと連鎖していった。
さらに不幸なことがもう1つ。実験を少し離れた場所から見学していたある人物が魔物化した際に、その精神によってガルガディアに呪いがかかったことだ。街全体が巨大なドームに包まれ、上空に舞ったマナは散開することなく、街全体に雨となって降り注いだ。
こうしてガルガディアは一夜にして壊滅したのだった。
*
力なくうなだれるリヒト達の基へ近づく足音があった。
「リヒトさん! エレシナさん!」
「無事だったのか! ミレアにグレン!」
「私は病気を克服してマナを自在に操れるようになりました。一緒に戦えます! 終わりにしてあげましょう。彼等はマナに囚われ、ずっと苦しんでいます」
リヒト達4人はサイクロプスの前に躍り出た。
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