第12話:ホムンクルス

 直感ではあったが、洞窟は教会近くで行く手を塞いだ大穴へも続いているとリヒト達は考えた。教会の下には魔獣の屍が転がり、さらにその先には何があるのか?

 しかし、今の状態で未知の大穴に向かうのは危険だ。もっと情報を把握する必要がある。


「通常、城には脱出用の抜け道があるが、ここはそんなものとは違う、もっと重要な機密事項と繋がっている気がする。だから多分、逆側に進めば城の内部に入り込めるんじゃないか?」

「行ってみるしかないのう。距離的に城は目と鼻の先じゃったからすぐに着くであろう」


 洞窟内の大きな空洞を城方面に進むと、二人の予想通り石壁に守られた大きな扉を発見した。

 それをくぐり、円形に湾曲したなだらかな石畳の坂を上がる。外壁には魔導力のランタンが付いており、デンゼの技術で抽出したマナをどこからか送り込んでいるようだ。人がいなくなった廃城でもマナが満ち溢れているため、マナを動力とした装置は稼働し続けているようだ。


「すごい技術じゃのう。暗闇でも手持ちのランタンを持たずに歩けるとは。こんな技術があれば皆んなの生活が楽になるのかのう?」

「俺にはどこか薄気味悪い気がするがな。おい、見ろ! あそこに扉があるぞ。入ってみよう」


 重い扉を開けると、そこは王立の研究施設のようだった。

 錬金術を思わせる様々な装置や材料。棚には多くの書物が並んでいる。見たこともない光る実をつけた植物に実験に使われたのであろう動物の亡骸。

 さらに奥に進むと、そこには光る水の入った大きな器に沈められた人の姿が並べられていた。


「これは生体人形ホムンクルスか! デンゼの王は神にでもなろうとしておったのか?」

「エレシナ、これは生きているのか?」

「マナで制御している装置じゃから廃都になった今でも安定しているようじゃ。じゃが、これは魂のない、言わば器じゃな。表に出しても動くことはなかろう。魂を作るとなると、可能であったとしてもそれは何世代も上の技術が必要になるのであろうの」

「研究に没頭するあまり、生命倫理というものが薄れていったのかも知れないな。だが、ここは魔物もおらず安全なようだ。少し探索してみよう」


 研究室の隣にはおびただしい蔵書を誇る資料室があった。エレシナは魔法とマナについての資料を、リヒトはデンゼの歴史についての資料を中心に読み進めた。



 デンゼ王国最後の王、ベルゼ。その祖父が王位についていた時代、異端的錬金術師ゾラゾラが植物の葉からマナを抽出することに成功する。それは異端と言われた彼の学術の正確さの証明でもあった。


「ひひひひ、王様、私の学説こそ世界を変えるのです。信仰に囚われた世間のバカどもを私の研究が出し抜いたのです」

「言葉を慎まんか! 王の御前であるぞ」

「よい! やつこそが、大国の脅威にさらされる我が国の救世主やもしれん。ゾラゾラよ、そなたの研究に惜しみない資金をつぎ込むことを約束しよう」


 国の総力を尽くしたマナの研究は急速に発展し、やがて魔法で威力を上げた大砲などにも流用されていった。

 ベルゼの父の代になり、ゾラゾラの死後も研究は秘密裏に進められていた。この頃から、より多くのマナを抽出するために、獣を利用するようになる。温厚なその代の王は研究の危険性を憂慮し、マナ研究の停止を命令する。


「これ以上の研究は危険だ! 我々は誤った道に進もうとしておる!」

「間違っているのはあんただよ、父上。マナの研究で我々の国はもっと豊かに、そして最強になる!」


 ベルゼは父を暗殺し、王位を奪った。この時のベルゼの年齢はわずか14歳だった。


「全ての倫理を取り払え! 我々は神になるのだ! 神の行いに不浄などというものはない。研究で足りないものは隣国から奪えばよかろう。神のために役立つのだ。愚民ども満足であろう」


 ここからデンゼ王国のマナの研究は飛躍的な伸びを見せる。そして次々と隣国を制圧。首都を無敵の城塞都市ガルガディアに変え、選ばれた者のみが住む神の園とした。


 そしてあの日、改良を重ねた最先端のあの装置の暴走で国は崩壊した…………。

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