第11話:ケルベロスとグリムリーパー4
「はあ、はあ、はあ……」
リヒトは岩壁にもたれるように体制を崩しながらも、気力で魔獣に対峙する。体は傷だらけで、もはや自慢の足を使うことすらままならない状態だ。
ポツリ……ポツリ……。
リヒトの頬を水滴が伝う。その粒はすぐに大きくなり、辺り一面を水の粒が降り注ぐ。奇妙なことだが天井を覆われている洞窟の中で雨が降っているのだ。
「相性は……相性はいいはずなんじゃ。火を打ち消す水の魔法。素早くてわしの攻撃が届かんのなら、せめて場を水の属性に変えようと思っての。強力な属性を持つ魔物ほど、打ち消す属性は嫌がるはずじゃ」
「オオォォォォン!」
魔獣の攻撃でボロボロになりながらもエレシナは残る力を振り絞るり、突然の雨に打たれた魔獣は嫌悪感を顕にする。
「まったく頼もしい相棒だぜ」
冷静さを失い3つの首を振り乱す魔獣に向けて、リヒトはもう一度直剣を構えた。
*
「そろそろ私に父上が編み出した必殺剣、ストーム・オブ・ソードを伝授して下さい!」
「ワハハハ。おまえの剣も形になってきたと思っていたがまだまだのようだな」
「父上?」
「すまん、すまん。あんなものは必殺剣とは言わん。絶体絶命のピンチの時などにはまず使えんぞ。あれは言わば、未来を示し仲間を鼓舞するための技と言ったところだな」
「それでは父上のように強くなるにはどうすればよいのでしょう」
「剣の道は地道な鍛錬しか無い。まあ、でもお前くらいの年なら必殺剣みたいなものに憧れる気持ちも分からんでもないな。そうだな、これは私が異国の友人から聞いた話なのだが……」
「心眼……ですか?」
「そう、相手の動きを心の目で見るのだ。目を閉じることによって惑いをなくし、あらゆる感覚を研ぎ澄まして相手の動きを把握する。もっとも死線をくぐり抜けてきた者にしか使えんがな。よっておまえには無理だ」
「ど、どうしてです?」
「なぜなら平和な世界を私達が作るからだ、レーヴェン」
*
(こうして目を閉じて五感を研ぎ澄ますと、暗闇で目を凝らすよりよほど周りの状況がつかめる。
降り注ぐ雨、水を跳ねる音の違いでやつの状態さえ伝わってくる。
水を嫌がって冷静さを欠いているようだ。そして炎の力も弱まっている)
リヒトは水の盾を前方に構え、魔獣の攻撃を待つ。勝負は一瞬。
水たまりを大きく弾く音で攻撃耐性に入ったのが分かる。
(喉を鳴らす音と火の匂い。炎のブレスが来る!)
魔獣が放つ炎のブレスはエレシナが作り出した水の盾で防がれた。場が水属性となっていることにより威力はだいぶ弱まっているようだ。だが、これは言わば、おとりの攻撃。
(足元の水を大きく弾く音。跳躍した! 降り注ぐ雨が紡ぎ出す音によってお前の軌道までもが手に取るように分かるぜ)
「ここだ!」
「ギャワン!」
リヒトの一撃が魔獣の中央の顔に突き刺さる。そして、そのまま力任せに剣を振り降ろすと、魔獣は青い光を放ちながら消滅した。
リヒトとエレシナは魔獣が落とした濃いマナの光を前に、互いにもたれかかるようにしながら座った。
「はあ、はあ……ミレアがいない今、この傷を治すには魔獣の放ったマナを取り入れねばなるまい。だがやりすぎてはいかん。魔獣と結合してしまうからの。目安としては傷を少し残す程度がいいのかのぉ」
「何とか勝てたな。エレシナが生き残ってくれてよかった。グレン達も無事だといいが」
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