第10話:ケルベロスとグリムリーパー3
「私はおまえを絶対に許さない!」
ミレアは瀕死のグレンを優しく抱きかかえたまま、近寄る死神を射るような目つきで睨みつける。死神はそんなミレアの魂の強さに惹かれていた。
(これは極上の魂だ。処刑人だった頃から、極限状態の人間が出す多くの魂に触れてきたが、これほど強いマナの光は初めてだ。欲しい。私の中に取り入れたい)
半透明の腕がミレアの首元を掴む。
「ギアァァァァ ウデガトケル……」
ミレアは微動だにしない。だが、彼女に触った瞬間、死神の腕はマグマのような熱を帯びながら形を失った。同時にミレアの体が金色に輝く。
(これは溶けているのではない。この女の体に吸収されているのだ)
ミレアの体内に取り込まれつつある腕は離すこともできない。たまらず死神はミレアの脳天に向かって大鎌を振り降ろす。
だが鎌はミレアの端麗な顔を傷つけることなく、これもまた彼女の体に溶けるように吸収されていく。
「無駄……。おまえの体は霊体のようなもの。そしてその大鎌も物理的な武器ではなく、マナそのもの。おまえの全てを喰らってやる!」
ミレアは生まれつき、生命エネルギーの源とも言えるマナを人よりも多く持っていた。
しかし、それ故に体内のマナが暴走し、変調をきたすことも度々。ミレアはそんな自分の体をいとわしく思っていた。これは自分自身の特性。だから、この病気は治ることがないのだと諦めていた。
グレンとは幼少の頃からの付き合いだ。彼はミレアの護衛として、幼いながらもいざという時は命を賭してでも姫君を守るように言い仕えられていた。
ミレアは身分の違いはあれど、いつも自分の味方をしてくれる彼を好ましく思っていた。
体の不調が顕著になり、第三皇女の使命も果たせないことでミレアは立場を無くしていった。そんな時でもグレン一人が彼女の味方をしてくれたのだった。
「グレンが私の病気を治すために、この度に出ようと言ってくれた時は嬉しかった。この体が治るとは思っていなかったけれど、彼と二人で旅をする思い出ができるのだから」
「ギガガガ……キュウシュウサレル……スベテナクナル……」
「彼が今まで示してくれた強い意志。今度は私が示す番だ。この体の呪いは私自身で超えて見せる。グレンを絶対死なせはしない!」
「グギャアァァァァ!」
強い閃光が教会を包み、死神は断末魔と共に完全にミレアの中に取り込まれた。
(自在にマナを操れるようになったため、奪い取ったマナを寸分の狂いもなく的確な量でグレンに注ぐことができました。瀕死の状態は脱したようです。
今は体力が回復するまで安全な場所でしっかりと休ませてあげないと。
そしてまた、リヒトさん達と合流したい。マナに蝕まれた私の体の呪いは解けたから、今度はリヒトさんにかかる呪いも解いてあげたい。もっともそれは私の役目ではないかも知れませんが。ねえ、エレシナさん)
「さてさて、それはそうと、グレンをベッドまで連れて行かないといけませんね」
ミレアは力いっぱい引っ張るが、グレンの大きな体はほとんど動かない。
「はあ、マナ暴走は克服しても、私の非力は変わらないようです。まずはこの重たい鎧を脱がしてみましょうか?……鎧と言えど、殿方の衣服を脱がすのは緊張しますね。いえいえ、お嫁さんになるならこれくらいのお世話ができなければいけません。私はもう姫ではないのですから」
こうして悪戦苦闘しながらも、マナで滑車が動く小型の荷車を見つけ、なんとかグレンの巨体を部屋まで運ぶ事ができたミレアであった。
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