第9話:ケルベロスとグリムリーパー2

「リヒトよ、わしの体をしっかりと押さえておくのじゃ!わしの魔法でなんとかする!」


 落下しながらも、エレシナは4本の触手を下方に向け、全身の魔力を絞り出す。すると二人の下に大きな水の球体が出来上がり、それはどんどん大きく成長していく。


「何とか間に合って欲しいのじゃ!」


 ドポンッ!

 地表から何メートル落下したのか?まずは巨大な球体が地面と接触する。そして、その球体の中に二人の体が包みこまれる。

 魔法の水クッションが二人の衝撃を吸収し、そして弾き返す。リヒトはエレシナをしっかりと抱きかかえたまま弾かれた体を回転させて、残った衝撃を押し殺しながら着地する。

 そこで魔法の水球は崩壊し、周囲を水が洗い流した。


「エレシナの魔法のおかげ何とか助かったぜ。しかし、どれだけ落ちてきたんだ。教会の床から漏れる光があんなに小さい」

「もう、戻るのは無理じゃな。ミレア達は大丈夫かのう?」

 

 だんだんと暗闇に目が慣れてくると周囲がゆっくりと形を帯びてくる。大きな洞窟。そして床に転がる白骨の山。その周りをゆらゆらと漂うマナがかすかな光を届けている。


「これは獣?いや、魔獣の屍か?」

「……マナのランタンを覚えておるだろう?デンゼ王国には生命の源であるマナを抽出する技術があり、様々なものに応用されておる。魔獣はより多くのマナを蓄えているとされておるから、ここはマナを抽出するためだけに殺された魔獣の墓場なのではないかの?」

「自分たちの豊かな暮らしのためだけに、これだけの生き物を殺すのか……。人間は生きるため以上の肉を食らったりするから、それと同じようなものなのかも知れないが……やはりもやもやするな」


「グル……グルル……」

「教会の床を破壊した張本人が出てきたようだな」


 暗闇の中で6つの赤い瞳が怪しく光った。

 その魔物はいくつもの個体が混ざり合っていた。その中でも象徴的なものが1つの胴体から生えた狼のような3つの首だった。体からは強い魔力を放ち、吐く息には炎が揺らいでいた。


「強敵だぞ! ヤツは俺達の魂を奪い取り、より強力な魔物になろうとしている!」

「火に水は相性抜群なのじゃ!」


 エレシナは暗闇に赤く光る目を狙い、水球弾を放つ。だが魔獣の動体視力はそれを上回り、素早く避けると同時にエレシナに突進。彼女の小さい体を吹き飛ばす。


「ぎゃっ!」


 エレシナの体は洞窟の壁に激突する。すかさず魔獣は彼女の魂を喰らわんと突進をかける。


「させるか!」


 リヒトはナイフを投げてターゲットを自分に向ける。魔獣は三つの口を大きく開けて、今度はリヒトを焼きつくすべく炎のブレスを吐きかける。

 咄嗟に飛び退いたリヒトだが、着地した床面の凹凸に足を取られそうになる。


「流石にこの暗闇では自由に動けない。相手は闇の中を住処とするもの。圧倒的に不利だな」

「リヒト、これを使うのじゃ!」


 エレシナが投げた薄っすらと光る何かをリヒトはその場でキャッチする。


「これは水の盾か?」

「わしの魔法を凝縮させた魔法の水盾じゃ。やつの炎は魔法だからこれで相殺できるはずじゃ」

「ありがたい。使わせてもらうぜ。神速が使えない分をこれで何とか補える」

「グルルルルルル」


 こうしてリヒトと魔獣の闘いが幕を開けた。



 一方教会では……


 死神の大鎌がグレンの腹を貫いていた。そして異様な力でグレンごと大鎌を振り、その体を壁に投げ飛ばした。


「ミ……ミレア様、逃げて……」

「グレン!」


 ミレアは傷ついた騎士の下へと駆け寄るが、ミレアの問いかけにもグレンは反応しなくなる。


(あの強い魂が欲しい……)

 死神は鈍く光る大鎌を構えながら、滑るようにして、ゆっくりとミレアの方へと近づいてくる。

 ミレアが顔を上げる。その瞳が鋭く光り、死神を睨みつける。


「私はおまえを絶対に許さない!」

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