題7話:大穴
騎士の詰所を抜け、道なりに進む。遠方に見えた廃城もだいぶ大きくなってきてた。確実に中心部に近づきつつある。
そんな一行の行く手を巨大な穴が塞いだ。直径にして300メートルはあろうか? 底は闇に包まれており穴の深さは分からない。
「ここが崩壊の震源地なのでしょうか? 地中より強いマナを感じます」
「強力な魔物の棲家かも知れんのう?」
マナに敏感な女性陣はただならぬ何かを感じ取っているようだ。
「地図にも記載されていないこの場所に何があったのでしょう? 下は光が届かずに何も見えません」
「地下に何かの重要な施設でもあったか? ここを調べればガルガディア壊滅の謎が解けるかも知れないな。だが、穴が深すぎて下に降りるのは無理そうだ。地下は城から通じているのだろうか?」
「ううむ。デンゼ王国は天罰によって崩壊したと言う者もおるが、この大穴を目にすると、あながち嘘とも言えんわ」
グレンは唸るように言葉を発する。
「俺の出身地はここから遠く離れているゆえ、デンゼについては詳しく知らないんだ。この国はそんなに評判が悪かったのか?」
「うむ。狂王ベルセが即位してから、デンゼの容赦ない軍事侵攻が始まってな。基は小国だったが、マナの怪しげな兵器を使うようになってから戦績は連戦連勝。破竹の勢いで進軍しては周囲の国を植民地化していったんだわ。そして、非人道的な行いをしていたと聞いておる」
しばしの沈黙の後、グレンは重い口調で話を続けた。
「捕虜として多くの人々を連行し、噂によるとその者達を兵士として戦場に送り込んでいたようなのだ。自国のためでもない戦争で、多くの人々が命を落とし、帰らぬものとなったようだ」
「なるほど。滅びるべくして滅びた国なのか……」
リヒト達は大穴を迂回するルートを探し、城への進行を続けた。
魔物を倒しつつの探索となるため、見えている距離がなかなか縮まらないが、それでも命を危険に晒すような強力な魔物との戦闘は避けられたため、日が暮れる前になんとか城壁の前までたどり着けた。
白く浮かび上がる廃城に寄り添うように佇む教会。今夜はここで一夜を明かすことに決めた。
「リヒトの持ってきた鹿肉の燻製は美味しいのう。いくらでも食べられるのじゃ」
「いや、少しは遠慮しろよ。貴重な食料を分けてるんだぞ」
「仕方ないではないか。わしの食料は触手になった戦闘でなくしてしまったからの。代わりに料理ならできるぞ。水の魔法だけじゃなく、人間時代に覚えた火の魔法も一応使えるからのう」
1本の触手を上に立て、小さな火を灯す。
「ウサギでもいれば焼いて食えるんだがな。しかし、ようやくここまで来た。ミレアさんの『回復の奇跡』があったからこそ順調に事が運んたとも言えるな」
「ぬわははは。そうであろう。そうであろう。ミレア様の力は格別だからな」
「だからと言って無理はほどほどにして下さいね。それより皆様、明日はいよいよ城に入りますので今後の方向を決めておいた方がよろしいのではないでしょうか?」
「わしはマナの研究所や資料室の他に、あの大穴を見てみたいのう。あそこにマナの大きな秘密が眠っているような気がするのじゃ」
「俺も賛成だ。あそこは何か気になる。街を大きく揺るがしたほどの何かがある」
エレシナの意見にリヒトは賛同する。
「我々は付き合えんぞ。あそこには強い魔物がいるかも知れんのだろ? うちの目的はミレア様の病気が改善する何かだ。だから王家直属の医療施設や研究所、資料室等が見たい。もっとも俺は難しい書物は読めないが、ミレア様なら学がある」
「私もグレンをなるべく危険に晒したくはありません。城まで入れば行き先は違えてしまうかも知れませんね」
一方、ミレアはグレンに賛同する。
「それでいいと思う。目的が違う即席のパーティーだからな。それぞれの成功を願って今日の食事を楽しもう」
「だったら、燻製を貰わなくては話が合わなくなるのじゃ!」
「合わなくならんのじゃろ、別に!」
温かい笑いで、一行は一時の安らぎを楽しんだ。そう、深夜までの安らぎを。
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