第5話:鎧の騎士

 朝日とともに行動を開始したが、青い霧に包まれた廃都は相変わらず視界が悪い。

 城に近づくにつれて街の崩壊は顕著になっていた。それは爆風などで壊れたというよりは、大型の魔物によって破壊された跡のように見える。つまり中心部に向かって進むに連れて魔物は強くなっているようだ。

 なるべく無駄な戦闘を避けるべく、目立たぬ場所を通っていく。故に目指す城への道のりは長い。


 慎重に歩みを進めると、やがて流れの早い大きな川がパーティーの行く手を阻んだ。通り抜けるには一本の大橋を渡るしかないようで、その先には何かの施設のような建物があり、関所となっている。

 ミレアは貴族邸より持ち出した地図で現在地を確認する。


「橋の先にある建物ですが、城を守る騎士の詰所兼訓練場のようです」

「しかし、よくできた城塞都市だわい。ここまで進軍できたとして、城に辿り着く前に兵士のたまり場を突破せねばならんのだから」

「まあ今の状況となっては人間の兵士がいた方がありがたいがな」



 橋を渡った先の施設の構造だが、大まかには細長い建物が中央の広場を囲むように伸びている。そして、その広場では集団訓練などをしていたのであろう。様々な訓練道具が設置されている。


「なんじゃか拍子抜けじゃのう。強い魔物でも現れて決闘になる展開じゃぞ、普通は。あるのは鎧ばかりじゃ」


 エレシナは薄汚れた銀の鎧を触手で弾く。そこでリヒトは瞬間的に違和感を感じる。


「エレシナ危ない!」


 リヒトがエレシナを抱きかかえて床に転がると同時に鎧の騎士の剣が宙を斬った。

 それをきっかけに、置物だと思われた他の三体の鎧も動き出す。


「ミレア様には指一本触れさせんぞ!」


 グレンは大きな両手槍を構えて大きく吠える。そして力任せに鎧の騎士に突進する。凄まじい勢いで壁に打ち付けられた鎧の騎士は砕け散り、そこで動きを止める。


「どうだ!百戦錬磨のこのグレン様とは騎士のレベルが違うわ!」


 鎧の下には兵士の姿はない。どうやら鎧だけが意思を持って動いているようだ。

立て直したエレシナも鉛のように重い水球弾で騎士の兜を破壊する。


「鎧に精神が憑依……あるいは精神が囚われて、それ自体が半生命体の魔物になっておるようじゃ」


「流石にこの辺まで来ると腰の短剣では役に立たないようだ」


 リヒトは襲いくる鎧の騎士の横切りをスライディングで避ける。そして、そのまま騎士の足を引っ掛けて派手に転倒させる。さらに、流れに任せて滑った先の壁を蹴って斜め上方にジャンプ。騎士の手元から離れた剣を空中で奪い取る。

 使い勝手を試すように、華麗に剣を舞わせてから倒れた魔物にとどめを刺す。


「うん、少し魔力を感じるが、軽くて切れ味も良さそうないい直剣だ。これなら俺の速さをそれほど邪魔することもないだろう」

「おお、リヒト殿は剣も使えるのか」


 もう一体の鎧の騎士も破壊したグレンが感嘆の声を上げる。


「元々はこっちが本職なんだ。ガキの頃に散々叩き込まれた」


 一瞬で四体の騎士を破壊したパーティーは緊張を解いて心を休める。

 そして、次の行動に移ろうとしたそのタイミングでリヒトの動きがピタリと止まる。視線が届かない範囲のその音を確実に感じ取る。


「まずいぞ!無数の個体が動き始めた!」


 廊下の扉が次々と開き、複数の鎧の騎士が姿を表す。


「一体の強さはさほどではないが、この数相手にするのはまずい。逃げるぞ!」


 リヒトは腰に付けていた短剣を護身用にとミレアに渡す。突破口を見つけなくては。


「だめじゃ!通路の右からも、左からも襲って来る。広場に出るしかないのじゃ!」


 一行は中央の通路を曲がり、階段を下り、広場へと駆け抜ける。広場は四方が建物に囲まれているため、抜けるには中央突破し、逆側の建物の階段を登らなくてはならない。

 リヒト達が広場の中央へと駆け出すと、鎧の騎士達は追っては来ず、建物沿いのバルコニーへと足を進める。


「どうやらエレシナの勘は当たったようだ」


 リヒトが指をさすその先、向かいの建物より大きな黒い影が降り立つ。

 3メートルはあろうかという巨体の黒騎士が大剣をこちらに向けたまま近づいて来た。

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