第10話 元カノ……!?
赤と緑と金の装飾、噴水のそばに設置された大きなクリスマスツリー、嫌でも耳に入ってくるクリスマスソング、イブまであと一週間を切った今日、駅前はクリスマスムードに包まれていた。
「もうすぐクリスマスか……」
辺りを見回しながら朝一さんは隣でポツリと呟く。
「そろそろ……手、離しませんか……?」
すでに私の握られた方の手のひらには汗が滲んできている。しかもただでさえ人通りの多い駅前だから、他人からの視線も徐々に気になってきた。私はそっと手をずらそうとしたが、
「だーめ、今日の清水さん可愛すぎて誰かに連れてかれちゃいそうなんだもん」
そう言って朝一さんは繋いだ手に鍵をかけるようにもう一度硬く握り直した。
そんなこんなでCUの前まで来たところで私は隙をついてパッと手を離した。
「ここでは流石に離しましょうね」
私がそう言うと朝一さんは不服そうに頬を膨らませた。そのムスッとした表情は初めてでちょっと可愛いと思った。けど言葉に出すとこれ以上に気を悪くしそうなので今日はやめておくことにした。
お店の中は暖かそうなダウンジャケットやニット素材の服がたくさん置いてあった。
「ダウンジャケット、あったかそうだな……」
そう思って朝一さんの方をチラッと見る。するとお店の店員さんと何やら楽しそうに会話を交わしている。服屋の店員さんに声をかけられるのってなんか怖いからちょっと離れようと思ったその時。
「あ! 清水さん、こっち来てよ〜」
朝一さんに気づかれてしまった。もう見てみぬフリはできなくなった。
仕方なく朝一さんの元へ向かう。
朝一さんの隣にいたのは、私より結構背が高くて金髪ショートヘアの綺麗な女性だった。モデルさん見たいなプロポーションでお店のちょっとダサいはっぴを羽織っていても素敵に見える。
朝一さんと店員さん、美人が並ぶとまるで後光が発生したかのような錯覚を受ける。
「この子がこの前私を助けてくれた隣の部屋の子だよ」
私のことを朝一さんは店員さんに紹介している。ちなみに私はこの店員さんとは一度もあったことはない。完全に初対面だ。
「はじめまして〜牧野です〜雪菜がいつもお世話になっております〜」
そう言って牧野さんは丁寧に頭を下げる。
「あっ! こちらこそ初めまして、えっと……清水です……あと、ゆきなって誰のことですか……?」
私がそう言うと、二人はきょとんとした様子で同時に顔を見合わせたあと、牧野さんがニコニコしながら、
「雪菜? 彼女できたんなら下の名前くらいちゃんと教えてるハズよねぇ……?」
と声を震わせて問いただす。朝一さんは蛇に飲まれる寸前のカエルみたいに小さくなっている。
「あの〜……牧野さん、朝一さんとはどういう関係なんですか……?」
私は勇気を出して牧野さんに聞いてみた。
「朝一さんは私の元カノだよ?」
牧野さんは何の突っかかりもなくサラッと爆弾発言を投下した。
元カノ……!? あまりにも親しい感じから友達なのはわかっていたけど、いざ元カノという単語と存在を目の前にすると、なぜか胸のモヤモヤが溢れ出てくる。
一方の朝一さんはあちゃーという感じで頭を抱えている。
「清水さんも可愛いね〜私も彼女にするならこういうピュアな子がいいな〜」
と言いながら牧野さんは私の頬に手を添わせる。細い指先が触れるその瞬間だった。
「清水さんには気安く触らないでほしい」
私が今まで聞いた中で一番低い声だった。
朝一さんがぐいっと牧野さんの腕を掴んで引き剥がすように私から遠ざける。
「安心してよ、私も彼女いるからさ、じゃあ仕事の方に戻るね〜」
ヘラヘラした態度で牧野さんは手をひらひら振って店の裏に行ってしまった。
朝一さんは一度深呼吸をして、
「清水さん、なんかごめん。あの人、悪い人じゃないんだけどね〜」
と苦笑いしながら軽く謝った。
「なんであの人と別れたんですか?」
私が訊ねた時、朝一さんは一瞬だけ悔しそうに下唇を噛んだように見えた。
「ちょっとお店出ようか、ここじゃ彼女にも迷惑がかかるからね」
朝一さんの声のトーンが少し下がった。
ジングルベルが囃し立てる駅前の店の一角は少し冷たい空気が静かに流れていた。
————————————次回「閉め出した記憶」
カクヨムコン9参戦作品です!
作品を作る糧になりますのでこの作品が良いなと思ったら☆、♡、ブクマ、応援コメよろしくお願いします!また誤字などの指摘も気軽にしてくれるとありがたいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます