第9話 似合う似合わないなんて


 「二人で迎える休日ってなんか久しぶりだな〜」


 朝食の納豆をぐるぐるかき混ぜながら朝一さんがそう呟いた。

 時計が示す時刻は八時四十五分、普段なら完全に遅刻確定だが、休日なので二人でゆっくりと朝食を食べている。


 「朝一さん、今日の予定はどうしますか?」


 私が食器を洗いながら尋ねると、


 「んえ……予定? 特にないけど……?」


 そう言ってグーッと背伸びをして朝一さんはゴロンと畳の床に横になってスマホを触りだした。

 せっかくの休日なのにここまで無駄な時間を過ごせるのか……少しムカついてきた。私は休日はなるべく出かけたいタイプだけど、せっかくなら朝一さんと一緒にお出かけしたい。


 「あの……朝一さん、一緒にお洋服買いに行きませんか?」


 私は二人でのお出かけを提案してみる。

 

 「つまり、デートってことだね……?」


 神妙な顔つきで朝一さんが私の方を見ながら言う。


 「デッデデデデデート!?!?」

 

 まるで火がついたように顔が熱くなって、ついでにこの部屋の温度も若干上昇したように感じた。デートなんてキラキラした言葉は私には縁遠いものだと思っていたけど、その言葉で一気に距離を詰められたようなそんな気がした。

  

 「あはは! 冗談だよ〜っていうか、身体の方は大丈夫そう?」

 

 朝一さんに心配された。幸いにも朝一さんの心音ASMRのおかげで熟睡できたので、身体のだるさなどは全部解消された。

 

 「はい、昨日より全然身体は軽いです」


 「じゃあ、準備して出発しようか。駅前のCUでいいよね?」


 「あ、はい。じゃあ私、準備してきます」


 食器を洗い終わった私は自分の部屋へ準備に戻った。

 なんだか対応が手慣れている気がするのは私の気のせいだろうか。

 まぁ、朝一さんも大人だ。きっと他の人との恋愛もたくさんしてきているのだろう……そんなことを勝手に想像するとなんだか胸がモヤモヤする。

 

 部屋に戻り、袖がぽわんと膨らんだ甘めのブラウスのボタンをとめ、二年前に一目惚れして衝動買いしたネイビーのジャンパースカートを一年ぶりに身に纏う。流石に寒いのでカーディガンを一枚羽織る。小さめの黒い鞄に財布と必要になりそうなものを詰め込んで……靴はローファーでいいか。

 こうして私の考えた今できる限りのデートコーデが完成した。

 朝一さんは何着てくるかな……?駅前だから気合い入れてそうだけど。そんなことを考えながら窓ガラスで前髪が崩れてないか確認する。

 五分ほど遅れて朝一さんの部屋のドアが開いた。


 出てきたのは朝一さんが大学に行った日の服装と全く同じ、ジーンズに灰色のダウンジャケット。シンプルな服装だがここまで洗練されて見えるのは朝一さんが結構な美人だからだろう。

 なんだか、デートだからって気合い入れてコーディネートした私がラフな格好の朝一さんの隣に並ぶのがものすごく滑稽に見えてきて、ちょっと恥ずかしくなってきた。

 朝一さんはそんな私の服装をブラウスから靴までじっくり眺めて、


 「スカートそんなに似合わないですよね……?」

 

 「清水さん! そのスカートすっごい可愛いね!!!似合ってる!」


 と私の言葉をガン無視したキラキラした目で見つめる。

 スカートの自分を褒められたのは純粋に嬉しい。ありがとう二年前の自分。

 過去の自分に感謝しながらちょっとスッキリした気持ちでアパートを出た。

 

 「そういえば、清水さんは何がお目当てなの?」


 朝一さんが服屋に行く目的を聞いてきた。私は咄嗟に頭を下げる

 

 「ご、ごめんなさい! 今日は朝一さんと一緒にお出かけがしたいだけだったんです……一方的にお願い聞いてもらっちゃってなんだか申し訳ないです……」


 そう告げると朝一さんはポカーンとした表情になって、一瞬顔を逸らして。照れ隠しのように笑って、


 「それなら最初からそういえばいいのに〜! よし! じゃあ今日は一緒に駅前散策しよっか!」


 と提案して、そのまま私の手を握って歩きだした。


 「ちょっ! 朝一さん!?」


 昼間だと色んな人に見られる可能性があるのに、ぎこちなさの欠片もなく朝一さんは私の手を握って、恋人繋ぎに指を絡め直す。

 

 「似合うとか、似合わないじゃなくて、清水さんがいいんだ」


 そう言って朝一さんはニコッと微笑む。私は朝一さんの手を少し強く握り返すことしかできなかったけど、

 この言葉をずっとクローゼットの中で待っていたように、私のジャンパースカートが嬉しそうにひらひらと風にはためいた。

 今日は、心なしか少し暖かい気がする。そんな日だ。


————————————次回「元カノ……!?」


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