第8話 原因不明の熱

 

 「う……うぅ」


 「あ! 意識はあります!!!」

 

 目を開けた。倒れてからあまり時間は経ってないのか、電子レンジがまだ動いている。

 ここ最近、能力の消耗が激しかったのかな、一定のラインまで能力を酷使してしまうと突然身体がぷつりと糸が切れたように動かなくなることが能力が発現してから度々起こるようになった。

 私のすぐそばでは、朝一さんがあたふたしながら救急車を呼んでいる。

 私はいまだに揺らいだままの視界を頼りに朝一さんのスマホを取り上げて


 「大丈夫です……」


 と掠れた声で電話を切った。


 「なんで電話切っちゃったんですか!? このままじゃ清水さんが!」


 朝一さんは私がまるで今際の際に瀕しているのかとでも思っているのだろうか。


 「能力の使いすぎで倒れただけです」

 

 「でも!」


 朝一さんは食い下がる。

  

 「お医者さんにこの能力のことを言って、どれだけ信じてくれると思います?」


 私は淡々と事実を告げる。時計の針がカチッと音を立てて動く。

 

 「うぅ……それは……その……」


 朝一さんは言い返せなくてまごまごと口籠る。


 「一日安静にしてれば大体の場合すぐ治ります、幸いにも明日私バイトオフですし。だから大丈夫です」


 私がふぅ……と一息ついたその瞬間、避ける暇もなく朝一さんが飛びついてきた。

 

 「ょ……よがっだぁぁ〜〜!!」


 「!?」


 緊張の糸が一気にほどけたのか、朝一さんは子供のようにわんわんと泣き始めた。そんなに私のこと心配してたのか……数分間そのままきつく抱きしめられた。


「なんかごめんなさい、私、人に助けを求めるのはちょっと苦手なので。今度からは遠慮なく言っても良いですか……?」


 抱きしめられたままお願いしてみる。するとぎゅーっと一段階締め付けが強まって

 

 「むんむんでんでんいいんばよ……?」


 と返された。何を言ってるかはかろうじてわかるのだが……

 

 「朝一さん、鼻水がすごいです……」


 今すぐボックスティッシュを持ってきてあげたいが抱きつかれているせいもあって身体が結構重い。


 「そろそろ、どいてください……」


 よいしょと朝一さんをどかして床に大の字になる。

 朝一さんはチーンと鼻をかんでいる


 「清水さん、夜ご飯食べれそう……?」


 朝一さんは電子レンジの中に結構な間放置されていたコロッケのラップを外しながら訊ねてくる。

 

 「ちょっと食欲ないです……」


 「うーん……わかった! 清水さんのために私がお粥作ってあげます!」

 

 あれ? そういえば朝一さんってあまり自炊しないんじゃ?


 「ちょっと待ってください、朝一さん。ちゃんとお粥のレシピは知ってますよね? 流石に爆発とかは起こさないでくださいね?」


 流石に言いすぎたかな? でも料理をあまりしたことのない人の料理は見ているだけで寿命が五年縮むほど非常におっかないので不安しかない。

 

 「私をなんだと思ってるんですか!?ちゃんとレシピは見ますよ〜!」


 朝一さんはそう言いながらスマホの画面をスイスイとスワイプする。

 

 「パックご飯でお粥って作れるのか〜!これでやってみよう!」


 朝一さんがお粥を作っている間、私は耳かきのASMRを聞いて待つことにした。

 

   ◇ ◇ ◇


 「———みずさん……清水さん!」


 いきなり呼ばれてハッと目が覚める。本日何度目の目覚めだろう。

 聞いていたASMRの動画も止まっていた。

 

 「お粥できましたよ〜!」


 台所から運ばれてきたのはふんわりとした溶き卵のお粥だった。小ネギがアクセントでパラパラ乗ってる。優しい見た目のお粥。

 

 「いただきます……」


 お粥を一口掬う。スプーンの上では湯気がゆらゆら踊っている。

 見るからに猫舌には熱そうな見た目だが、隣で合格発表直前の受験生みたいな心配そうな目で朝一さんが見てくるので一気に頬張る。


 「はむっ……はふはふっ……」

 

 お粥の硬さは舌で潰せるくらいご飯粒一つ一つが柔らかくて、卵のふわふわした食感も重たいご飯の流れをよくする潤滑剤として機能していて、何よりも味付けが完璧だった。多分この前買ってきた鶏がらスープの素を入れたんだろう。鶏がらスープの旨みが全身に染み渡って疲れた身体を優しく癒す。


 「ん……美味しいです」


 「やった〜〜〜!!!」


 合格って感じかな。この人多分料理はできるんだけど、めんどくさくて結局やってこなかったタイプだろう、今度から料理は一緒に作ってみようかな。

 

 朝一さんは私の代わりに食器を片付けて、シャワーを浴びに行った。

 ご飯を食べたら私の身体も心も安心したのか若干眠くなってきた。

 重い身体をもう一踏ん張りと叩き起こし、敷き布団を引いてすぐに布団を被り、生ぬるい暗闇に潜るように目を閉じた。


  ◇ ◇ ◇


 ゴソゴソ……と何か私の布団の中で動くような音が聞こえる。

 なんだか気に食わないのでゴロンと寝返りを打つ。

 

 ふにっ

 

 (ふにっ……?)


 私は意を決して布団をバサっとめくる。


 「うっ……寒い……」


 案の定朝一さんが私の布団の中でうずくまっていた。

 

 「なんで私の布団にいるんですか!?!?」


 次の瞬間、目を開けた朝一さんがぐいっと私の服を強く引っ張った。私の目線と朝一さんの目線が一直線に交わる。

 

 「今日は寒いから、ここにいさせて」


 そう囁いて朝一さんは私を湯たんぽのようにぎゅーっと抱き寄せる。


 「やっぱり、清水さんはあったかい」


 ずるい言葉だ。寝ているのに走った時のように心拍が速くなって身体も熱を帯びていく。多分朝一さんにはバレてるんだろうな。

 

 「……今日だけですよ」


 本当は今日だけとかなんて言わずにもっと来て欲しいなんて、私からは言えない。でも今だけはあなたの心音にそっと身を寄せていたいんだ。


————————————次回「似合う似合わないなんて」


カクヨムコン9参戦作品です!

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