2日目
テーマ:「添い寝」
モチーフ:「音楽家」「髪」「雪」
「
明日の仕事に備えて寝ようとしたとき、
冷え性な咲楽の足先が私の足に触れ、背筋にゾゾゾと悪寒が走る。
「冷たいよ。せめて靴下履いてこい」
「え~、わたし靴下履いて寝れないんだよね~」
「なんでだよ」
「なんか、拘束感がある? みたいな」
言いながら、咲楽が私にぎゅっと抱き着いて来る。
「まぁ、くっついてればすぐにあったかくなるよ」
「こっちの方が拘束感あると思うけどね……」
とは言え、今日は初雪を観測するほどに冷え込んでいる。ルームシェアを始めてまだ半年、忙しさもあって本格的な冬支度ができていなかったので、明日の朝に凍えないためにもこの人間湯たんぽは甘んじて受け入れるべきなのかもしれない。
咲楽にくっつき、髪に顔を埋める。咲楽の髪からはブロッサム系の甘酸っぱい香りが漂っていた。使っているシャンプーは一緒なので、私からも同じ匂いがするのだろう。自分ではよくわからないが。
「音葉」
不意に、咲楽が私の脇腹の辺りを指先で軽く撫でて来た。
「なに?」
「また痩せた?」
咲楽の声には明らかに心配の色が見えた。
それを聞いて、私は微かに嘆息した。バレたか。いや、別に隠してたわけじゃないけど。
「……2kgくらいかな」
元々、肉付きの良くない身体ではあった。
周囲からは羨ましがられることも多いが、私のこれはそんなに良いものではない。
高校受験、大学受験、就活はもちろん、定期テストや部活の大会前など、ストレスのかかる時期にはいつも決まって体重が落ちていた。他の子たちも意味もなくイライラしたり生理周期が狂ったりしたみたいだが、私はどうやらストレスが体重に現れる体質のようだった。
そして、それは今も変わらない。
今年の四月に就職した後、特に研修期間が過ぎた後くらいから、私の体重はじわじわと落ち始めていた。
「……まぁルームシェア始めた頃に少し太ったから、これでトントンかな」
「無理しちゃだめだよ」
咲楽にしては珍しく強い口調だった。
皆から羨ましがられる私の体質を、咲楽だけは本気で心配してくれているのだ。
「……ん、わかってる。ありがと」
咲楽の背に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
今の私は咲楽に救われている。残業を終えて帰ると、いつも咲楽がご飯を用意して待っていてくれて、それが何よりの支えになっている。
今日だって、たぶん咲楽は私があまり元気がないことにことに気が付いて、励ますために布団に入ってきたのだろう。この子はそういうことをしてくれる子だ。
「ありがとね、咲楽」
「へへ、どういたしまして~」
再び咲楽の髪に顔を埋める。
咲楽も私の胸に顔を埋めた。
いつまでもこうして咲楽と温めあって生きて行けたらいいな。と、そんなことを考えながら、私は心地よい眠気に身を預けた。
「……胸無さすぎない?」
「おいコラ、一言余計だよ。寝ろ」
完
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