一週間短編執筆生活 ~2023年11月~
宝場 巧
1日目
テーマ:「幼馴染」
モチーフ:「セーラー服(スカーフ)」「ほっぺを膨らます」「サイダー」
照り付ける日差しが肌を焼き、蝉時雨が沈んだ心に虚しく響く。
そういえば、今日は最高気温が三十八度に到達する予報だったか。いつの間にか汗でぐっしょりと濡れた制服を不快に思いながら、フラリと足の赴くままに公園に入る。
「はあああ~~~~っ……」
ベンチに腰かけた途端、重い空気が俺の肺から流れ出た。
フラれた。ものの見事にフラれた。
夏の大会も終わり、大学受験を控えた三年生は今日が引退日だった。今日を逃すともう簡単には先輩に会えなくなるからと、俺は入部以来一年半に渡って想いを募らせてきたマネージャーの先輩に告白した。
結果は惨敗。
「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくね」
そう言って笑顔を作った先輩は明らかに困っていた。恥ずかしすぎる。
清々しいほどに脈ナシだった。
「よっ」
不意に、首筋に氷のように冷たい物が触れた。
「うわあああああああっ!!」
驚いて飛び上がる。振り返ると、ベンチの後ろに立っていた少女が「ぷはっ」と噴き出した。
「うわあああって、驚きすぎでしょ」
「……
その少女、日葵はお腹を抱えるようにしてけらけらと笑っていた。半袖のセーラー服から覗く細い腕が日差しを受けて白く輝いており、ウェーブのかかった茶髪と相まって明るい印象を受ける。手には結露で濡れたペットボトルを持っており、先程俺の首筋に当てたものがそれであることが伺えた。
「驚かすなよ」
「ごめんごめん。はいこれ」
日葵は軽く謝ると、俺にペットボトルを差し出して来た。
「……なんで?」
「いいから受け取れって」
不思議に思いながらもペットボトルを受け取る。外装フィルムには矢尻を三つ束ねたようなマークが印刷されていた。
「サイダー?」
「好きでしょ?」
「好きだけど」
話しながら日葵がベンチに座ったので、俺も再び腰掛ける。
ジリジリと、蝉の鳴き声が降り注ぐ。
実際、喉は乾いていた。というか告白する前から緊張でカラカラだった。だけどフラれたショックもあって、今まで何も飲んでいなかった。この炎天下でそれは危険だと言うのに。
ペットボトルのキャップをひねる。プシュっという気持ちのいい音と共に炭酸がしゅわしゅわ抜けて、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。一口含むと、程よい刺激が舌の上でパチパチと弾けた。
そのまま一気に喉の奥へと流し込む。よく冷えたサイダーが染みわたり、乾いた身体を潤していく。
「フラれたんでしょ? ナントカ先輩に」
「ぶっ!?」
突然、日葵がそんなことを言い出した。思わずサイダーを吹き出してしまう。
「な、なんで!?」
「わかるよ。何年幼馴染やってると思ってるの」
日葵はしたり顔でそう言ってのけた。思わず「マジか」と口から零れる。
「マジです。サッカー部の三年が今日で引退って聞いた時からなんとなくこうなる気はしてたんだけど、ここを通りがかった時に君が死にそうな顔でうなだれてるのを見て『あ、ダメだったんだな』って」
「そんなに詳細に解説しなくていいから……」
フラれたことを思い出して、再び気分が沈み込む。
そんな俺を見て、日葵はケタケタと笑っていた。
「ま、元気出しなよ。そんな気にすることでもないだろうからさ」
「お前さぁ、人が落ち込んでる時に……」
「落ち込むことないって言ってんの」
日葵は勢いよくベンチから立ち上がった。
「この私に奢ってもらったんだから、君は今とっっっても幸せなの。だから落ち込むことはない!」
ビシっと俺を指さして、日葵は自信満々にそう言った。
「……ぷはっ!」
「……何よ」
思わず吹き出した俺を見て、日葵が怪訝そうな顔をする。
「いやなんか、コイツ自信に溢れすぎだろって。なんなら俺より恥ずかしいこと言ってるし」
「ええーー!? なにそれ!! 人がせっかく励ましてあげてるのに!!」
日葵はぷくりと頬を膨らませた。
「でも、笑ったら元気出たわ」
思えば日葵は昔からこうだった。不器用なりにいつも周りのことを良く見ていて、何かあったときには率先して動いてくれて、いつも俺の助けになってくれる。
これは確かに、落ち込んでなんかいられない。
膝に手を当て、立ち上がる。
「ありがとな」
俺の言葉を受けて、日葵はにまりと笑った。
「お礼は百倍返しでいいよ♡」
「……コンビニの新作プリンでいいか?」
「え、あれめっちゃ好き!! ……あれ、その話したっけ?」
「いや、でも……」
不思議そうな表情の日葵に対し、俺はしたり顔でこう言った。
「わかるよ。何年幼馴染やってると思ってんだ」
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