第12話 天使への心理テスト
「は、晴榎? え? 美術部じゃなかったの?」
僕が問いかけると、晴榎はたったっと僕の傍に駆け寄ってきた。
「美術部の方には行ったんだけど、部長は臨時の部長会に行っちゃったし、先生は六咲市民美術コンクールの打ち合わせに行くとかで今日はお休みになっちゃった。で、暇だからここに来たって訳」
「ああ……なるほど……」
部長会とは各部の部長が集まって、予算や今後の活動方針を話し合う定例会議みたいなものである。臨時で部長会を開くということは、他の部活で何かあったのだろうか。
「それで? 樹生は何でここに?」
「えっと……僕は……」
「どうした?」
とそこに数枚のTシャツを持ったザラキエルが現れた。
「あれ? 冴良木さん? ああ、そっか。冴良木さんは樹生と一緒に暮らしてたね」
「う、うん……。ほら、留学しに来たって朝言ったでしょ? だけどザラキ……じゃない、エルは服とかあんまり持って来てなかったから、こうして買いに来てるんだ」
「ふーん」
何か言いたげに晴榎は僕とザラキエルを交互に見ていた。
「でも、留学してきて日本のことあんまり分かってない冴良木さんに、やっすいTシャツ買うのはちょっといただけないかなー?」
「え、ええ……だって……」
「だってもなーい! 女の子は可愛い服が好きなんだよ? 樹生だって可愛い服着た冴良木さん見たいでしょ?」
「そ、それは……そうだけど……」
晴榎の目がいつも以上にマジになっている。ここで言い返せない僕もまだまだ晴榎には敵わないなと反省させられる。
「だったら! もっと可愛い服が売ってる場所に行くべきだよ! 冴良木さんだって可愛い服着たいよね?」
「はい? え、えっと……」
ぐいっと来る晴榎にザラキエルもどう反応すればいいのか分からないようだ。
「そ、それはそうですけど……私も留学が終わったら本国に帰らないといけないので、あまりお高い服を買って貰っても、向こうで着る機会があるかどうか……」
「あー……そっか……。日本のファッションと外国のファッションは違うもんね……ごめんね、何か私の考え押しつけるような言い方して」
「いえ、お気になさらず……」
おお、変なスイッチが入った晴榎に対してよく言い返せたなと僕はザラキエルを称賛した。僕でさえ言い返せないのに。
「というかこんなダサいTシャツ買うくらいなら、私のでよければあげるよ!」
「新波さん、いいの?」
「いいのいいの。ま、正確には私の親戚のお下がりなんだけど。大量に在庫抱えても意味無いし、いつか捨てるつもりだったから、貰ってくれると嬉しいわ!」
「そうでしたら、有難く頂戴します」
「よっし! それじゃあ早速帰ろ?」
ここに来た意味は何だったのか。それでも晴榎に僕の財布事情が助けられただけでも感謝だ。これに関してザラキエルは多分干渉していないはず。後で確認してみよう。
ザラキエルは持ってきたTシャツを元の場所に戻しに行った。
「ありがとう晴榎」
「いいって。あ、だけど私のお下がりの服には靴下とかは入ってるけど、ブラとか入ってないから、その辺は樹生がどうにかしておいた方がいいよ?」
「あ……うん……エルと相談しておくよ」
流石に下のランジェリーショップでさっき買ったとは言い出しづらい。
数分後、元の場所にTシャツを戻したザラキエルが戻ってきたので、僕たち三人はショッピングモールを出ようとする。
入口の自動ドアを潜っている最中、前方から来た学生服の男子三人組の左側にいる人の腕と僕の腕がぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
僕はすぐに謝り、ショッピングモールを出ようとする。だが——
「ああ? ごめんなさいだぁ?」
僕とぶつかった学生服の男子が、僕の襟元を掴んで進行を遮る。
「俺の腕、今すっげぇ痛ぇんだよ? お前、俺が最近試合で腕痛めたこと知ってぶつかってきたんだろ!?」
「え? ええ……そんなこと……知らないですよ……」
「るせぇ! こっち来い!」
そう言われ、僕は襟元を掴まれたまま、カート置き場やゴミ箱が並んでいるエントランスの角に連れてこられた。道行く買い物客が何事なんだろうと見ているが、誰一人として助ける素振りをしない。
そして僕の目の前に高身長で茶髪をワックスでカチカチに固めている男子が立った。この三人の中で一番偉い立場のような雰囲気だ。
「さって、とりあえず落とし前つけろよ」
「お、落とし前……?」
「そうそう落とし前。コイツにぶつかった分のな。いいから財布出せ」
「い、嫌です……」
襟元を掴まれながらも僕は腕で鞄を死守するように抱える。
「いいから出せっつてんだろ! おい、そいつの鞄から財布出せ」
「へい」
僕を掴んでいた男子が、無理矢理僕の鞄のチャックを開けだした。僕は必死に抵抗するが、その抵抗も虚しく、力の差が大きく、男子の手に僕の財布が渡ってしまった。
「ったく、さっさと出せばよかったものをなっ!」
ゴッ——!
「かはっ——」
突然茶髪の男子が僕の腹に拳を入れて殴ってきた。的確に僕の腹に入った拳により、僕は声にならない声をあげて蹲る。襟元を掴んでいた男子は殴りが入った瞬間に手を離していた。
「へへ、あーっすっきりしたー。最近誰も殴って無かったからスカッとしたぜ」
手をパンパンと振り払う茶髪の男子。僕の視界はノイズが走ったようにチカチカし、腹から広がる痛みと吐き気が脳を襲っていた。
「なぁ兄貴、コイツの連れの女、めっちゃ上玉じゃね?」
残っていたもう一人のスキンヘッドの男子が、晴榎とザラキエルを指さした。
晴榎とザラキエルを見る視線は下心しか考えていなく、その視界も晴榎とザラキエルの胸及び陰部しか広がっていない。
「おお、確かに。へへ、こんなヒョロい奴とじゃなくて俺たちと遊ばね?」
「嫌よ。アンタたちみたいな暴力を振るう人たちとは一緒にいたくもないわ!」
「……同感」
晴榎とザラキエルは拒否したが、自己中の男子たちはそれを望まない。
「ああ? 折角俺たちが遊んでやるって言ってんだろ! 素直にこっち来やがれ!」
茶髪の男子の手が晴榎の腕を掴む。
「嫌っ! 離して!」
晴榎は必死に掴まれた手を振り解こうとしたが、茶髪の男子の力が強く、振り解けない。
「や……めて……」
僕は腕を伸ばして晴榎を助けようとするが——
「邪魔なんだよっ!」
「あぐっ!」
スキンヘッドの男子に背中を蹴られ、タイルの上をずるずると滑る。
寝転がっていた邪魔者が消えた男子三人は、晴榎とザラキエルの腕を無理矢理掴み、連れて行こうとする。
「離して!」
晴榎の必死に抵抗する声。それを聞いても助けようとしない買い物客。
ザラキエルは特に何も言わず、ただ男子たちの流されるまま動いていたが——
「晴榎ちゃん、ちょっとだけ気を付けて」
「えっ?」
小声で晴榎に何かを言うと「邪魔」の一言で自分を掴んでいた男子の手を振り払った。
「こ、このっ——」
「ふっ——」
もう一度腕を掴んでくる男子諸共、三人の男子の足目がけて綺麗な足払いを繰り出した。それはまるでカンフー映画のように無駄が無い洗練された動きのように見える。
「な——」
「「うわっ」」
足払いをかけられた男子たちは為す術もなく、その場で転んだ。
晴榎を掴んでいた手も転ぶと同時に離された。
「今のうちにそこのサービスカウンターの店員さん呼んできて」
「う、うん!」
晴榎はザラキエルの言われたとおり、ショッピングモールの中に入って店員を呼びに行った。
一方起き上がった男子三人は、ザラキエルに対して敵意が完全にむき出しになっており、ザラキエルをずっと睨みつけている。
「こんの——アマがぁ!」
ザラキエルの顔面目がけて飛んで来る茶髪の男子の拳。
女性であろうが容赦の無い勢いの拳がザラキエルに迫る。
「これだから人間の男は」
まるで男に愛想が尽きたような一言を吐くと、細い腕でその拳を受け止め——受け流す。
「な——」
勢い任せの拳を受け流された茶髪の男子は前に蹌踉めく。
振り返って再度ザラキエルを殴ろうとしたその時——
「——かっ」
ザラキエルの手刀が茶髪の男子の首の後ろの直撃。
直角に振り下ろされた手刀は、見事に茶髪の男子の意識を刈り取っていた。
茶髪の男子は勢いを完全に失って、うつ伏せになって倒れた。
「あ、兄貴ぃ!」
「くっそ……テメェ!」
兄貴分がやられた腹癒せに他の二人もザラキエルに手を出すが——
「ぐあっ!」
「うあっ!」
とそれぞれ的確に急所を突いた一撃を受け、その場に倒れた。
ザラキエルが三人の男子を片付けた時、晴榎が呼んできた店員が到着する。
「こ、これは一体……」
三人の男子が倒れ伏している姿は正に死屍累々。店員も困惑するのも無理は無い。
「大丈夫です。ちょっと眠って貰っているだけですから」
「そ、そうですか……」
「この三人が起きたら言っておいて下さい。暴力は振るわないようにと」
「は、はい……」
それだけ言うと、ザラキエルは僕の元に来て立ち上がらせた。
「大丈夫?」
「ま、まぁ……」
「家帰ったら治療してあげるからそれまで我慢して」
「うん……」
僕はザラキエルの肩を貸して貰い、少し蹌踉めきながら歩く。ザラキエルとは反対側に晴榎が来て、晴榎も肩を貸してくれた。
買い物客に変な視線で見られながら僕たちはショッピングモールを後にした。
ショッピングモールを出ると、空は夕暮れから夜に変わるくらいの橙から紺へ染まる頃合いになっており、一等星が輝きだしていた。携帯の時刻は午後六時半付近。ちょうどいい帰る時間帯だ。
二人に肩を貸して貰いながらまたバスに乗り、僕たちの家の近くのバス停で降りる。ザラキエルの運賃も僕が支払った。
バスから降りる頃には二人の肩を借りずとも歩くことが出来た。あの三人組から受けた痛みも引いてきている。
家に差し掛かる道すがら、晴榎がザラキエルに何か聞いていた。
「冴良木さん、ちょっといい?」
「エルと呼んでいいですよ」
「本当!? じゃあエル……さん」
「さん付けでもちゃん付けでも呼びやすい方で構いませんよ」
「じ、じゃあエルちゃん!」
「はい、何でしょう」
「エルちゃんって、海外で何かやってたの? あの不良三人を倒してたの凄いなーって思って」
翼や光輪が出てなかったところを見ると、あの格闘術は天使の力ではなく、ザラキエルの素の力なのだろう。天使の仕事に格闘術が必要になるのかは知らないが。
「ちょっとだけ……向こうの学校の授業で」
「へぇー、凄いなー」
海外の学校の授業に格闘術のカリキュラムはあるのだろうか。ザラキエル自身が捏造した嘘かもしれない。
「私も出来るかな? それが出来たら樹生を不幸から守れそうだもん」
「ふふ、仲がいいですね」
「でしょ!? 私と樹生はずっと一緒に過ごしてきたんだもん!」
「……何か張り合ってない?」
「ぜ、全然!?」
どう見てもその反応はザラキエルに対して張り合っているとしか思えない。大方、父さんの知り合いの子で一緒に住んでいるから、仲の良さとか過ごしてきた時間は私の方が上なんだもんと言いたいのだろう。童顔な幼さも相まって子供じみている。
「エルちゃんって樹生の不幸体質のことは知ってるの?」
「はい、知っていますよ。説明も受けました」
僕が説明したのではなく、ザラキエルは元々から知っているしなぁ……。
「じゃあさ、エルちゃんって天使とか信じてる?」
「え——」
僕は歩く足を止めた。ザラキエルの方も足が止まっている。
「あ、あれ? どうしたの? 変な質問しちゃったかな?」
一方、当の晴榎は僕とザラキエルの方を交互に見ながらまごついていた。
まさかもうザラキエルの正体が天使だと晴榎に感づいてしまったのか……。いや、本当に感づいていたら「信じてる?」なんて質問なんかしない。「エルちゃんって天使?」って直球に聞いてくるはずだ。
晴榎には申し訳無いが、目の前にいるエルという少女は正真正銘の天使だ。自分が天使なのに「天使って信じてる?」と言われると、どう反応すればいいのか分からなくなるのも頷ける。
「い、いえ……少し驚いただけです」
本物の天使ザラキエルは、目が点になりながらも晴榎の質問に答える。
「私は……信じていますよ。母が熱烈なキリスト教徒でして。聖書もよく聞かされていたので私もいつの間にか信じるようになりました」
「へぇーそうなんだ。じゃあだけど……もし明日死んじゃうとしたら何がしたい?」
「……それは一種の心理テストのようなものですか? それとも別の意味がありますか?」
「え? 別の意味……? よく分かんないけど、心理テストだよ」
「そうですか。そうですね……」
晴榎が心理テストを誰かにするとか珍しい。僕にもしたこと無いのに。ひょっとして女子の間で流行っている……ってことなのだろうか。
「いつも通りの生活をすると思います。急に思い立って何かをしようとしても、上手くいかなかったり、出来ないことだってあると思いますし、それに普段通り生活するのが何気ない幸福な時間でもありますから」
仮に晴榎が僕に同じ心理テストを聞いてきたとしても、恐らく僕もザラキエルと同じことを言っただろう。僕にとって不幸な出来事を含めた日常生活が、何者にも代え難いものとなってしまっているのだから。
「へぇー、エルちゃんって案外普段派なんだね」
「それで、この心理テストの意味は何だったのですか?」
「あ……えっとね……この心理テストは『急な展開にあなたはどう対応するか』っていうことらしいの。エルちゃんみたいな人は普段派、ご飯食べたり友達と会話したりとかね。遺言状とか保険とか入る人は慎重派。周りの人のことまでしっかりと考えて対応する人、みたいな感じ」
「なるほど……面白い結果ですね」
「でしょ?」
というような話を僕たちの家の近くまでずっとした。ザラキエルは晴榎のぐいっと来る行動や言動に驚いていたが、僕が助太刀することで解決したことも多少あった。留学設定を再現しているのか、難しい言葉を使ってきた場合は「分かりません、どういう意味ですか」と問いかけるシーンもあった。本当に分かっていないのか、これは演技なのか僕にも見分けが付きづらかった。
晴榎の家の前まで来ると、晴榎は「じゃあね! 服とかまとめたら後で持っていくから!」と言って自分の家に戻っていった。僕とザラキエルは晴榎を見送ってから家に戻る。
「ただいまー」
と言っても家の中は誰もいない。もう母さんも父さんも仕事の方に行ってしまったみたいだ。
ひとまず荷物を自分の部屋に置き、家全体の明かりを付ける。
ザラキエルも母さんの部屋に鞄を置き、居間の方に来た。
「はい、ちょっと見せて」
「何を……?」
「何をって、あの不良共に殴られて蹴られたところ」
「あ、ああ……」
僕は上着を持ち上げて、内科検診のようにザラキエルに怪我した部分を見せた。
そんながたいのいい体では無いので、少し恥ずかしい。
「なーに恥ずかしがってんの。昨日も言ったけど、天界から見てたんだからそこの長さとか知ってるよ?」
ザラキエルは僕の股間を示した。
「——っ!」
「あっはっは、やだなーもー。からかってるだけじゃん」
「…………」
家と学校時との対応の差が違いすぎる。こっちの惚けた方が素のザラキエルだって分かっている。しかし晴榎と話している時や学校時は丁寧で綺麗な口調で話しているので、ちょっと慣れない。
僕の体をまじまじと見たザラキエルは、翼と光輪を出して緑色の柔らかな光を浴びせてきた。
「ちょーっとじっとしてて。微妙に痣っぽくなってたからこれで消しておくよ」
柔らかな緑色の光は、ミントのようにすーっとした爽快感を与えてくる。殴られて蹴られた痕が優しく包み込むように癒されているのが分かる。
「ねぇ、下着決めた時に僕を呼んだのってザラキエルの力?」
「あれ? うん、そう。私の見える範囲にいれば、干渉して声を届けることが出来る。干渉さえ出来ればね」
「じゃあ翼とか光輪とか見えてたんじゃ……」
「あのねぇ、ああいった店には試着室ってもんがあるでしょ?」
「ああ……そっか……」
「そういうこと。試着室のカーテンの隙間から君を見れば、翼とか光輪とか他人に見せずに私の力を使えるでしょ? わざわざ顔出さなくてもいいしね」
なるほど、機能的な力の出し方だ。現在の人間界のことをあまり知らないはずなのに、よくこの方法を思いついたなと思う。
「はい、終わり。これで痛く無くなったはず」
痛みを包んでいた緑色の光が空気に溶けるように消え、それと同時にザラキエルの翼と光輪も消える。
殴られた腹と蹴られた背中を押すと、ピクッと走る痛みが一切無かった。
「おお! す、凄い!」
「でっしょ? その膝の怪我とか治せるけどやる?」
「いや、これはこのままにしておいて。急に治っちゃったらみんな不審がるから」
「それもそうね。あー、お腹減ったなー」
まるで僕に言い聞かせるように居間のソファに寝転ぶザラキエル。隙間から水色のパンツがちらっと見えていたので、視線を冷蔵庫の方に移す。
「わ、分かったよ」
僕は冷蔵庫からラップに包まれて余っていた野菜を取り出し、慣れた手つきで切っていく。棚からコンソメのブロックを取り出し、鍋に水を入れて火にかける。コンソメを入れて溶かし、切った野菜の一部と鍋に入れた。
「やっほー、エルちゃんいるー?」
と不意に玄関が空く音が聞こえ、晴榎の声が家中に響いた。
ザラキエルはソファから立ち上がり、玄関へ向かう。
少し経つと玄関が閉まった。恐らく晴榎が帰ったからだろう。
居間に戻ってきたザラキエルは段ボールの箱を抱えていた。ガムテープで留められていない上部分を開けると、女性用の服がぎっしりと詰まっていた。
「さっき言ってた服だね」
「そのようね。早速着てみようかな」
「こ、ここで着替えないでよ?」
「はいはい。部屋で着替えますよーっと」
何かいじけるように、段ボールを抱えて母さんの部屋に戻っていくザラキエル。
その間にコンソメの味を確かめながら塩胡椒、ブラックペッパーで仕上げ、弱火でぐつぐつと煮る。フライパンに油を引いて残っていた野菜を炒める。ある程度野菜がしなってきたら塩胡椒で味を調え、皿に盛り付ける。
僕用の器と買ってきたばかりのザラキエルの器に、出来たてのコンソメスープを入れて机にコトッと置く。茶碗も買ってきたばかりのものを取り出し、保温されている炊飯器から白米をよそった。茶碗も置くと僕はあることに気付く。
「あっ……ザラキエル用の箸……」
ザラキエル用の箸を買うのを忘れていた。仕方ない、明日も別の場所で買い物しつつザラキエル用の箸やそれ以外のものも揃えておこう。今日は母さんのものを使ってもらおう。
冷蔵庫からお茶を取り出し、夕飯の支度が出来た丁度のタイミングでザラキエルが降りてきた。
爽やかそうな薄緑色のロングワンピース。半袖仕様っぽく、袖からザラキエルの白くてか細い腕が見えていた。妖艶な銀髪と合わさって大人な女性っぽく見える。
「どう? 似合う?」
「う、うん。似合うよ」
「そ。案外いいね、コレ。ちょっと気に入っちゃったかも」
その場でくるっと回転するザラキエル。ワンピースのスカートが綺麗な円を描いていた。
「で、それが夜ご飯?」
「うん。余ってた野菜で作った簡単なものだけど……」
「別に私はそこまでグルメじゃないから。ただ食べれればいいの。天界には野菜も肉も無いから」
「ええ……? じゃあどうやって生活してたの?」
「その変は食べながら話そっか」
「そうだね。それじゃあ、いただきます」
「いただきまーす」
今日の夜ご飯は、一人で食べる夜ご飯より美味しくて楽しかった。
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