その聖女、島流しの果てに人間狩りを始める
上下サユウ
その聖女、島流しの果てに人間狩りを始める
「判決を言い渡す。被告、ラーナ・エルフィオーネは、勇者殺しの大罪人として魔人島への島流しに処す!」
冤罪を擦りつけられた私こと、ラーナ・エルフィオーネは、聖女人生始まって以来の大ピンチを迎えました。
こうなってしまった全ての原因は、この国、アルキナ王国の第一王子であり、勇者のシュバイン・メイルスにあります。
少しばかり魔王討伐の旅路を一緒にしたからといって、「惚れた、結婚してくれ」何て言われたものですから、「キモいので嫌です」と言って、婚姻をお断りしました。
確かに私は美聖女コンテスト五年連続優勝を成し遂げた絶対的な聖女。街を歩けば男共は全員振り返って釘付けになる存在です。
「ふっ、誇り高い勇者である僕に対して舐めた口を叩くとはね。いくらお前でも生かしておく訳にはいかないな……」
ちょっとキモいと断っただけで、剣を向けてくるとは思いもしませんでした。精神耐性皆無の巷で言われるメンヘラというやつでしょうか。
「婚姻を断ったからといって私を殺そうというのですね……ですが、あなたに私を殺せますか?」
「ふ、僕を誰だと思っている。本気になれば、お前如き容易いことさ! 死ねぇッ!!」
シュバイン王子は、血走った瞳で剣を振り下ろします。
私は殺されそうになったので、返り討ちにしてミンチにしてやりました。
「あなたに私を殺せますか?」という言葉は、何も私を愛していたから戸惑ってしまうのではないか? という意味では無く、言葉通り、私の方が圧倒的に強いから言ったのです。
「だから言いましたのに」
私は肉塊になったシュバイン王子を、ゴミを見るかの様に見下ろしながら言いました。
私は思うのです。
自己防衛でしょう。ですが、結論は過剰防衛でした。
確かに殺したのは、不味かったかもしれません。ですが、解き放っていない聖魔法の中に自分から突撃してきたのはシュバイン王子なのです。
例え伝説の魔物でも、あの魔王であっても、私の聖魔法の前には塵と化します。
何よりも私は、元より魔法を撃つつもりはありませんでした。単に脅しのつもりで身構えただけというのに酷い判決ですね。
まぁ、たった一月でも旅をすれば、美しすぎる私に惚れてしまうのは確定事項だとしても、自己中で傲慢で我儘で空気も読めない顔面醜悪王子なんて死んで良かったのです。
私は良い行いをしました。
完全に冤罪ですね。
そもそも王家の権力を使い、自分を勇者にするキモいヤツがどこにいるというのですか。
魔王の方が、まだ可愛げがありました。
「僕は王子であり、勇者だ。そんな僕に求婚されているんだ。嬉しいだろ? お前は僕の言う事だけを聞いていればいいのさ」
何て言われて素直に従う馬鹿がどこにいると言うのですか。あぁ、手錠をかけられた今でも腹が立って仕方ありません。
あの肉塊王子に蘇生魔法でもかけて、またミンチにしても良いかも知れませんね。
「魔女はこの国から出て行け!」
「おいクソ聖女! 殺されなかっただけ感謝しろよ!」
「よくも私達を騙していたわね!」
「聖女と名乗った悪魔に天罰を!」
「何て酷い事をしてくれたんだ!」
あれだけ私を聖女様と拝んでいた街の者までも、今となっては暴言や石を投げてくる始末。
まぁ極刑で無かったのは唯一の救いです。
魔王を倒したのは、この私ですからね。
クソ王子は何の貢献もせず、びびってガクブルして立ち往生していただけで、むしろ足手まといでした。
(ハァ……こんな事になるなら、勇者は魔王に殺されたとでも言っておけば良かったですね)
こういう時だけは、なぜか私は素直なんですよね。
様々な罵声を浴びせられながら、私は今にも沈みそうな小舟に放り込まれました。
魔族が棲む魔神島へ、文字通り島流しにされたのです。
◇
「おい!? 人間の女が来たぞッ!」
「こ、こうしちゃいられねえ」
潮の流れのまま辿り着いた先は、魔族が根城にしている魔人島です。
見た目は普通の人間と変わらない魔族が、私を見るなり、警戒して仲間を呼びに行きました。
「あ、あの〜。私はあなた達に危害を加える様な人間ではありません。ですから武器を下ろしていただきたいのです」
魔族とはいえ、私は魔王を倒した聖女。
本気で戦えば、造作も無く島民を消すことは可能ですが、私にはもう行く宛てもありませんし、何より喉はカラカラ、お腹ぺこぺこなのです。
何とか島の魔族達に助けを乞います。
普通の人間ならとっくに死んでいるのでしょうが、あり余る魔力のお陰で、私は無事でいられました。
「ボルゼス様、コイツです」
「おい人間の女、なぜこの様な所へ来た?」
黒い鎧を纏った屈強な男の魔族が言いました。
私が倒した魔王の側近の四天王に似ていますね。
「私の名は、ラーナ。ラーナ・エルフィオーネと申します。あなた方が敵視している人族に追い出されたのです。どうか助けていただきたく……」
「――同族に追い出されただと? その様な話を信じるとでも思っているのか?」
「信じていただけないのは、お察し致します。ですが、見ての通り私は一人です。小舟も壊れていますし、か弱い女が一人で異国へ渡るとお思いですか?」
魔族には私が魔王を倒した事は話さず、嘘をつきました。本当の事を言えば戦闘が始まり、一人で生活しなければなりません。そうなってしまえば、食事を自分で作らなければなりませんからね。
私は神託を言い渡したり、戦闘は得意ですが料理はからっきし出来ません。
毎日ゴミの様なお食事はしたくありません。
「確かに言われて見れば……おい、この女を連れて行け」
ひとまず戦闘は避けれました。
命拾いしましたね。
魔族が、ですが。
今まで魔族を見るなり戦闘しかしてきませんでしたが、改めて接してみると、魔族は人族と違いって優しい方ばかりでした。
頬がやつれた私を見てのことなのか、パンを恵んでくれたり、子供達から話しかけられたりと、当初思っていたよりも魔人島での生活は快適そうです。
さらに魔族はイケメンばかり。ハーレムを送れそうな気すらします。
私はこれまでの事情を説明すると、潔ぎよく迎え入れてくれました。むしろ、アルキナ王国で伝えられている様な酷い魔族は、人族に思えてきます。
魔族は狡猾で獰猛で残酷。
そう教えられてきた私は、アルキナ王国の人達に沸々と憎悪が芽生えてきます。
◇
三年後。
「ラーナちゃん、ほ、本当に帰っちゃうの……?」
「えぇ。ですが用事が済めば、すぐに帰って来ますね」
「よかった……。それじゃ待ってるからね!」
「体に気をつけるんだよ」
「ラーナがいないと寂しくなるな」
「行ってらっしゃーい」
「ラーナ、この物資は皆からの贈り物だ」
「ボルゼスさん、みなさんもありがとうございます! それでは皆さん、行ってきます」
すっかり島民の皆と仲良くなり、手を振って船に乗り、アルキナ王国を目指します。
私はこの三年間、ずっと考えていました。
どうすればアルキナ王国を滅ぼせるのかを。
そして、ようやく答えが出ました。
「さあ、人間狩りを始めようか」
〜Fin〜
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