第8話 思っていた以上に・・・悪い

高飛車な生産部の部長が、会議で社長から突っ込まれた翌日、社長の独断で、生産部が不正などしていないか監査する事が決定した。


何故か自分も監査の打ち合わせに呼び出され、社長と専務、総務課長と自分が会議室で集まり、今後の予定を話し合う事になった・・・が、専務と社長が色々と監査項目や日程について揉めている。


「今まで、生産部の部長に丸投げし、碌に監査していないだろう? あいつ、なんか隠している気がする・・・徹底的に調べろ!」と言う社長に対し、


「現行で動いている機械は故障が多く稼働率が落ちています。新しい機械の導入についても再度協議しなくてはなりませんので、監査に一週間以上も割く事は現実的ではないと思います。」と答える専務。


まぁ、社長に就任して1か月後に不祥事コンボ・・・就任後1年たった現在も問題多発、そりゃ慎重になるわ。


「うるせえ!お前らのガバナンスがガバガバでどんだけ俺が苦労してると思ってるだ!ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ、てめぇ!! おい、高田部長!前の会社で監査してたよな? お前が指揮して、どの位掛かる? 言え!」


社長メチャクチャ荒れてるなぁ・・・周りの人間を信用していないのは分かるが、「オマエ信用出来ない、少しはマシな奴に・・・」みたいな感じで、話を振ってくるのは止めてほしい。


「その前に総務課長、工場設備や労働安全衛生に関する監査規定若しくは基準は有るのですか?」


「就業規則に一部記載がありますが、明確な監査基準は有りませんね。」


監査基準を一から作るの? 面倒臭い・・・。


「監査に関する基準を一から作るのに協議や修正などで約1カ月、基準が出来てから監査行うとなると確実に2カ月以上になります・・・監査基準が無く、監査項目が不明なので、短期間で限定的な監査を行うとして、書類の整合性はともかく最低限必要な書類が有るかどうかに限定し、書類の不備の確認については総務課の職員2名が、監査項目の設定及び現場の不安全個所の確認については私が見るとして・・・最低1週間欲しいです。」


「おい!それだと、基準を作ってからだと間に合わず証拠隠滅され、強引に監査したとしても仕事の邪魔という理由で妨害や隠ぺいする可能性が有るって事だよな?」


社長の一言に、皆さんが渋い顔になる。


「あまり良い手ではないですが・・・辞令で、一時的に監査する人間に強制監査権与え、調査については妨害や隠ぺい発生しない様に懲戒処分をチラつかせて圧力加えれば、ある程度は抑えられるのではないでしょうか?」


「・・・わかった、直ぐに辞令も出そう!あとは何がある?」


「それでは、生産部の皆様に『今なら隠ぺいしていた事を報告したら懲戒処分を軽減するが、監査で見つかった場合は容赦なく処分する、期限はこの告知日を含め2日間』と告知して下さい・・・監査は告知した次の日に行います、考える間を与えると、ろくな事をしないと思いますので・・・」


経験上、監査日を告知すると、必ずって言ってもいいほど、それに合わせて隠ぺいする。


だから、あと1日あると油断させて窮地に追い込む方が、監査の効率が良い。


観念して報告してきたら儲けものだ。


流石に総務課長が引きつった顔で一言言った。


「高田部長、随分とエグイ手を考えるんだな・・・」


「まともにやってれば、気にする事もないですが? 本来、いきなり監査しても問題が見つからないのが普通ですよ、どちらにしたって監査する人間は嫌われるんです・・・なら、効率が良い方法でやった方が得でしょう?」


そう言いながらニヤリと笑うと、社長以外はエグイものを食った様な顔になっている。


社長は、チンピラが慌てて目を背ける様な、悪どい笑顔で言った。


「そう、この位やらないと、バカは止めない、止められない・・・それも、しっかりとやっておこう!明日まで! 高田部長、お前が監査の指揮をやれ!」


えっ?マジか?やりたくないんだけど?




生産部の監査が中々終わらず、総務部長から早く報告書を上げろと煽られていたので、仕方が無く中間報告書を監査開始から3日後に提出したのだが、一日と立たずに社長と専務、総務部長から呼び出された。


あぁ…胃が痛い。


やはり、呼び出されたか…しかし、どこまで不正や不始末など行われたか正直根が深すぎて解らん。


社長の予想通り、隠ぺいしていた不祥事が出るわ出るわ・・・観念した社員が慌てて自供してきた。


そのおかげで、現在のデータについて改ざんだけではなく、過去ののデータも改ざんされていたなど、とにかく無茶苦茶だった事が判明した。


チェックシートなどは、チェックもしていないのにチェックされていたり、故障していたり、存在しない機関にもチェックが入っていたりして、唖然とした。


一見、書類に問題なさそうに見えて、巧妙な改ざんがある為、本来なら、虱潰しのごとく一つ一つ潰している訳である・・・が。


正直、ここまで酷いと、一から書類を作った方が早い。



まぁ、他にも多数問題点が出るわ出るわ…あまりの酷さに眩暈がした。


①ハラスメントの常態化。


②マニュアルはあるものの、機械の修繕改良した際に同時に変更するのだが、マニュアルは初期のままで埃をかぶっていた・・・。


③安全装置が、無断で機能を止められたままで放置・・・。


④教育マニュアルや報告連絡についての基準が無い・・・。


⑤責任者が退職した者のままになっている・・・。


⑥作業機械の法令点検未実施が多数・・・。


⑦無資格者にやらせてはいけない業務を強要・・・。


⑧仕事で必要な工具を会社は用意せず、社員が自前の工具で作業・・・。


⑨前の部長が、機械を壊した社員から罰金を取っていた・・・。


⑩修理部品等の横領・・・。


⑪測定器の校正未実施による不具合・・・及び測定結果の改ざん。


⑫危険物の不適切保管・・・及び不適切使用。


⑬消防法に関係する設備の無届け変更・・・。


⑭毒劇物の保管管理の不備、漏洩・・・及び紛失。


その他多数…。



これをどうにかしろと? 無理だよ!何の罰ゲームだよ!


この部署、一旦潰した方が早くね?



・・・と言う感じの中間報告書を上げた訳である。


そりゃ社長や専務から速攻で呼び出されるのは当然だわ、俺でも同じ事をする。


この報告書には、さすがの総務部長も大慌てだった様で、直ぐに生産部の管理職全員の緊急招集・・・現在、私は会議室前の扉に立っている。


正直、この扉開きたくないが・・・開かん事には進まない。



扉を開けると、そこには「鬼」の形相をした社長がいた・・・。


その横には、額に青筋を立てている総務部長がいた・・・。


そして、バツが悪そうな顔をしている専務・・・。


その正面に、顔が青ざめた生産部の管理職の方々が座っており・・・。


俺もそこに座らされる訳である・・・座りたくないが、座らんと話が進まんだろうな。


みんな着席し、会議が始まった。

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