第4話 予想外のパソコントラブルが斜め上の件
生産部に手伝いにきて3日目の夜を迎えた頃、予想外のトラブルが発生した。
当初、生産部の方々と共にパソコンでデーター入力をしていた…が、パソコンの1台が突如フリーズした。
この時点で、もしかしたらヤバいかもしれないと思った…が、時すでに遅し、サーバーに保存する前に完全に使用不能に陥ってしまった。
その事態に、みんなが凍りつく...今日、一人で10人分働く咲ちゃんの1日分の作業が、消えたかもしれないのだ。
あまりの出来事に、みんなが呆然としている中、俺は口を開いた。
「...疲れたから、コーヒー飲もうか?とりあえず、みんな休憩!」
そう言って、1人の生産部の部下に、お金を渡した。
「みんなの分の飲み物、ヨロシク!」
疲れた顔をした部下が、お金を受け取り、黙って買いにいった。
みんなに、飲みたい物を聞き忘れているぐらいだ...よほど、心身共に疲れているのだろう。
トラブル発生時にジタバタしていても、あまり良い結果にならない、最低限やる事以外はなるべく控えた方が結果としてよい場合が多い。
とりあえず、コーヒー飲んで落ち着こう・・・それが無難だ。
自分の後ろでは、次長がパソコンの管理者に連絡している。
「...はい、...15分後、...分かりました。」
電話で状況を確認していたようなので、聞いてみる事にした。
「次長、何か解りましたか?」
「いいえ、解らないので、15分後に管理者がこちらに来るようです。」
少しは、頭の中を整理する時間はありそうだ。
「以前に、同様なトラブルはありましたか?」
「かなり前に...、ウイルスに感染して止まった事は、1回だけ有りましたが…今回は、その可能性は低いと思います。」
確かに...面倒臭いと思うぐらい、かなり強固なシステム。
この会社は、2年前に2度ほど続けざまに、パソコンで管理をしていた個人情報が漏れ、新聞に載ってしまった。
対策としてクラウドでの管理に切り替えたが、まさか、クラウド側の処分したハードディスクからの流出は想定外で社内が大混乱に陥った。
信用を回復する為に、ネットワーク管理専門の部署を強化し、個人情報などの重要書類について、社内のデータベースサーバに保管、従業員の役職に応じて引き出せる情報の閲覧制限の強化を行った。
あと、会社が購入し改造したパソコン以外は、会社内の通信回線に繋がらない様にしたシステム構造になっており、全てのパソコンのデーターはWindowsのシステムに搭載されている「BitLocker」を利用して暗号化され、さらに、カードリーダーによるロック機能が組み込まれた。
万が一、物理的に、パソコンの中にあるハードディスクを取り出しても、解読不能・・・「BitLocker」の回復コードが無いと事実上、分析不可能だ。
この事により、置忘れによる紛失や盗難、処分する際のデータの機密性は飛躍的に向上した。
ウイルスチェックも、3重で行っている。
さらに、全社員にフィッシング対策の教育を実施、止めに取引先からのメールに、ウイルスやフィッシィングサイトのURLを発見し報告したら3万円の懸賞までかけた。
ここまで、徹底的にやる会社も珍しい…。
「次長、今回の件で、生産部が24時間体制で動いていますが、パソコンの管理者の人員は大丈夫なのでしょうか?」
「以前、管理者とお話した時ですが、長期間なら、この体制を維持するのは無理だそうです。1週間ぐらいなら、増員しなくても大丈夫だと…。」
「現状でギリギリと言うところですか…、新たに、大きなトラブルが発生してしまうと厳しいですね。」
「短期間で方を付けないと、最悪、左遷されるかもしれませんね…。」
「なら、俺はクビですね。」
次長は、苦笑していた。
実は、半年前ぐらいに、社長が残業禁止令を出していた。
残業は、割り増しの時間給や、余分な電気代などのコスト増加、リスク増大などが有るので、なるべく無い方が良い。
最近は、会社が放出する、二酸化炭素の排出量なども、評価の1つにもなっているので、気を付けなければならない。
この会社の管理職の場合、基本的に残業代が無い上、残業が多い部署は、総務から目をつけられ、給料の査定も下がる。
それゆえ、上司は定時に仕事が終わるように努力する。
部下が努力しなければ、上司も帰れない上に、給料も下がるのだ。
実は、このような体制になったのは、俺が原因だ。
実は、入社して2週間経過…様々な問題が目立った為、社長の机にブラック社員のリストや、リスク対策、経費節減に関する提案書を、コッソリと匿名で提出したのである。
もちろん、すぐにバレた…。
が、良いと思ったら直ぐに実行する社長だ。
力ずくで、上層部の反対を黙らせ、俺をいきなり課長に昇進させた。
その後、対策案を実行する為、調査を命じられ現在に至る訳である。
それゆえ、古株には嫌われ、比較的新しい方には好かれると言う、両極端な立ち位置に居る。
総務にとっては、微妙な存在らしい…。
なんだかんだ、話したり、考えている内に15分経過、時間ピッタリでパソコンの管理者が到着した…が、管理者を見て驚いた。
三十代ぐらいの男性で、つなぎ姿、よく見ると、腰には工具の数々、左腕にはノート型パソコン、右腕に抱えているのは、故障したパソコンと同型の本体…。
「…お、お待た、せしま、した。」
どうやら、全力でこちらに向かって来てくれたようだ…、が、肩で息をしている。
「大丈夫か?」
「大丈夫、です。直ぐに、なおしますので…。」
「いや…大丈夫でないだろ。とりあえず、このコーヒーでも飲んでくれ。」
「すいません…でも、早く、直さなければ、支障が…。」
「とりあえず、少し休め!」
気持ちは嬉しいが、無理し過ぎは、よろしくない…。
彼には、申し訳ないが、少し休んでもらう事にした。
彼が休んでいる間、俺は故障したパソコンのケーブル類を外して、代わりのパソコンに接続した。
・・・そして、パソコンの電源をいれる。
・・・正常に起動、ネットワークも問題無し。
ネットワークから、フリーズする前のデーターを読み出した…が、最新のデーターは6時間前。
どうやら、壊れたパソコンから、データーを吸い出した方が早そうだ。
管理者が口を開く…。
「とりあえず、ハードディスクを取り出してみましょう。」
と、言ってパソコンを開けた…、なんと、パソコンの中は埃だらけ。
そこに居るみんなが思った…コイツが原因だと。
「恐らく、埃によるショートか、熱暴走ですね…。」
(ああ、見れば分かるよ、びっしりだ!なぜ、ここまで放置した…。)
火災に、ならなかっただけでも御の字か…。
「質問ですが、パソコンの清掃は誰が担当ですか?」
「すいません、パソコンの内部は自分になります…外装は部署の方になりますが。」
そう言うと管理者は、壊れたパソコンからハードディスクを取り出し、とある機械に差し込んだ。
そして、ノート型に接続…、ノート型パソコンを立ち上げた。
管理者の顔は冴えない…どうやら、ハードディスクは天に召されたようだ。
「すいません…ハードディスクが物理的に壊れたようです。大事なデーターは入っていますか?」
(…ああ、入っているよ!咲ちゃんの1日分がな!)
俺は、そう思いながら質問した。
「もし、復旧するとしたら、どのぐらいかかりますか?」
「…恐らく、専門の業者に特別にお願いしても、最短で3日、物理的に壊れた場合、完全には復旧は出来ない事が多いですね…。」
…あぁ、駄目だ。
諦めが肝心だな…時間も無い、頭を切り替えて、作業した方が良さそうだ。
「今回は、諦めます…。」
そして、俺はみんなに言った。
「とりあえず、今、使用しているパソコンを掃除するぞ!仕事はそれからだ!」
同じようなトラブルが、また発生したら、たまらない…その前に、手を打たなければ。
そこで、管理者が口を開く。
「すいません、実は、お願いが有るのですが...。」
非常に、イヤな予感しかしない…。
「他の部署のパソコンも、清掃していただけれは有り難いのですが…。」
(あぁ、やっぱり!…無理だ!これでも人員が足りないのに、勘弁してくれ。)
「残業が基本駄目になったので、清掃する人員が足りません。どうにかなりませんか?」
(うっ、俺が原因か?、人員が足りないのは違うと思うが。)
そこで、俺は少し考えて、答えた。
「現在、生産部は重大なトラブルの処理をしています。これを打破した後なら、手伝えますが、いかがでしょうか?」
「はい!よろしくお願いします。」
とりあえず、方が付けば、何とかなるはずだ!
とりあえず、室内に有るパソコンを、咲ちゃん以外のみんなで清掃する事にした。
咲ちゃん1人で、最低5人分のデーター入力が出来るので、清掃作業に回すような事は出来ない。
パソコンの管理者と自分達は、作業していたパソコンの清掃作業に回る事になった。
さすが、人の数が多いので、部屋の中にあるパソコン10台は次々と綺麗になっていく…、恐らく30分ぐらいで完了するだろう。
管理者と雑談しながら作業を進めた。
「ちなみに、会社内のパソコンは何台ありますか?」
「全部で250台ぐらいですかね…。」
ふと、頭に浮かんだ疑問を、管理者にぶつけた。
「これだけの台数に、セキュリティ対策をしたら、かなりお金が掛かったのでは?」
恐らく、何百万ぐらいは掛かっているだろう…。
「いいえ、全然掛かっていません、ウイルス対策ソフト以外は、ほぼ0円です。」
…は? ゼロ円! 何故?
「ハードは、会社に有る物で何とかしました…ソフトウェアは、以前、趣味で開発したのを、少し改造しただけなので、タダです。」
「凄いですね…専門学校で勉強したのですか?」
「いえいえ、自分は貧乏だったので、中卒です。」
「では、独学で…。」
「いいえ、師匠に教わりました。…が、自分の師匠は天才なのですが、同時に、科学ってサイコー!って人ごみの中でも、平気で叫ぶ変人ですので、…一緒に歩くのが辛い。」
…そんな事やる奴を1人だけ、知っている。
「まさかと思うけど、そい『セイジロウ』って言わない?」
「そうです!師匠とお知り合いですか?」
…あぁ、やっぱり。
「俺のダチだ…。」
「そうだったんですか!すいません、まさか師匠の親友の方とは知らず…。」
「気にしてないので大丈夫。確かに、あいつと出掛けるのは…確かに、かなり辛い。この前なんて、宗教の勧誘してきた相手に、『神の名のもとに、科学を愚弄するのか!貴様、俺の敵だな!』っと、町中で叫ばれた時には、さすがに置いて帰ろうと思ったよ。」
「…さすが師匠、要らぬ伝説を残しますね。」
「まったくだ…。」
しかし、あのマットサイエンティストの弟子とは…世間って狭いねぇ。
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