第2話 予測不能!あり得ない会議とその後
さあ、みんなが嫌がる会議の始まりだ。
上席には凄い威圧感のある社長、右と左にズラリと並ぶ管理職。
当然、自分の座っている席は末席である。
(あぁ、胃がキリキリする。)
この会社に入社して半年、場違いなのも解っている。
しかし、この会社では、管理職は月に2回開かれる会議の内1回は出席しなければならない。
しかも、議論はほとんど無く、内容が薄い…覇気も無い…はっきり言って時間の無駄である。
なんで形ばかりこだわるのか…生産性や合理性が無いから無駄なお金が発生するのにやめられない国民性は如何なものかと思う。
さすがに、今回も同じパターンかと思われたが、違ったようだ。
今回の会議の議題は、工場に導入される機械についてだ。
とは言っても、目の前の資料を、一区切りも無く一方的に喋っている…。
しまいには、喋り終えたかな思ったら次の言葉に絶句した。
「…と言う事で、機械の導入に賛成の方は挙手して下さい。」
おい!議論しないのか?会議の意味無いだろ!
嫌な予感が的中したが、正確には予測の斜め上だ。
まさかと思ったが念の為、喋っている方を無視して資料を一気に読んだ。
資料の文字を、そのまま喋っているだけなので問題が無いと思ったからだ。
むしろ問題は資料の方だ。
半分読み終えて問題が一点発見、部品が国外からほとんど取り寄せになる可能性が出てきた。
国外の機械だと、物によっては部品発注してから最悪3ヶ月以上かかる事もあり、リスクが高い。
代理店に、部品のストックが無く、国内に代用品が無ければ、最悪部品が国外から到着するまで生産ラインが止まる。
さらに読み進めていくと、取扱説明書やパーツリストは全て英語、これも不味い。
トラブル発生時、早期に対策が取れないかもしれない。
英語が出来る方がオペレーターなら良いが、そうとは限らない。
簡単な構造なら、取説も要らないが、今回は複雑な機械。
以前、仕事中にコンピューターや制御装置の異常により、突然停止したり、緊急停止が出来なくなった事も前の職場では経験している。
さらに、予想外な場所に、安全装置等が組み込まれて、判明するまで半日以上かかった苦い思い出が浮かび上がった。
「質問したいのですが、よろしいでしょうか?」
さすがに、黙っていられない…。
発言した事に周りの方々は、信じられないと言う顔をしたり、睨み付けたりと様々、良くは思われていないご様子…。
あぁ、胃が痛い…これも仕事だしなぁ。
「質問?資料に書いている事にケチ付けるのかね?しかも君には関係の無い事だ!部署が違う君に何の影響があるのかね?」
「お言葉を返すようですが、本来会議とは議論する場のはずです!部署が違うと言えど、私の部署も会社の一部!会社の利益を上げる為に努力する事に違いは有りません!」
「トイレと玄関掃除が会社の利益を上げる努力だと?無駄だ!お前よりも私の方が稼いでいるのだ!馬鹿は休み休み言え!」
「今の議題とトイレは関係ありません。論点を変えないで頂きたいのですが・・・」
「今回の機械についてお前に何が解る!時間の無駄なのだよ!」
キツイなぁ…こりゃ駄目だ。
そう思った矢先、社長が口を開く。
「高田部長、何故あなたは玄関とトイレを掃除する?」
社長が笑っている?助け船か?
俺の発言に賛同しているのか?
なら、期待を裏切らない様に頑張らなければ!
「トイレと玄関を掃除する理由は、玄関とトイレの汚れ方で会社のレベルが判明するからです。」
「具体的には?」
「まず、玄関やトイレが汚ない会社は従業員のレベルが低い、もしくは細かい配慮が出来ない傾向があり、それを見たお客様は信用性に疑問を持つ事があるからです。私が、この会社に面接した時、玄関とトイレが汚く、信用出来る会社か非常に不安でしたので、正直、辞退するか迷ったほどです。」
「その通り!昔から言われている事だがな…最近の若者は、その事を知らん奴も多い。実際に清掃をやり初めてから営業に関しては、少しやり易くなってきている。」
社長の言葉に、先ほどまで罵声を浴びせていた部長の顔が真っ青になっていた。
さらにダメ押しの一言…。
「彼は色んな所に目が利くのだよ…資格も過去に経験したキャリアも君と段違いだ。機械の導入の件は次回の会議で議論が必要そうだな…。」
そう言って社長は立ち上がり会議室を後にした。
その後、精神がズタズタにされた部長はと言うと、1週間後に辞表を提出、会社から去っていった。
その部長は、仕事の引き継ぎを、ちゃんとしないで辞めた為、人手が足りず、雑務課が手伝いをする事になり、2週間泊まり込みで、悪戦苦闘する事になる…が、咲ちゃんが居たので、その程度済んでいるのは言うまでもない。
恐るべし、東大卒…。
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