正直者が馬鹿を見るこの世の中で・・・
髙田知幸
第1話 トイレと玄関の掃除でブラック社員はバタバタ辞める!
薄汚れた30平米の部屋で、カタカタとパソコンのキーボードを打っている30代後半男性。
名前は高田清、役職は部長である。
部下は、現在、女性1人のみ。
男性部下も3人いたが3日と持たず、物の見事に昨日辞めていった。
この会社では、問題ある方の最終地点が、この雑務課になる。
因みに、半年前に出来たばかりの部署なのだが…すでに、かなり評判が悪い。
会社自体は従業員が総勢515人、支店も10ヶ所あり中々の規模。
会社の経営状況も、そんなに悪くはない。
しかし、その中で一番異様な部署が雑務課である。
何故なら、雑務課の主な仕事は、玄関とトイレの掃除である。
しかも、本社だけではなく、支店の掃除も含まれている。
まず、プライドが高い人は続かないだろう。
過去には懲戒処分を受けた奴が「不当な評価に断固抗議する!トイレ掃除などハラスメントだ!訴えてやる!」と訴訟に走った奴も居た。
普段から、そんな事を言っている様な奴は危なかしいので、やらせられる仕事が無くなり、仕方が無くトイレ掃除をやらせていた訳である。
裁判所も、「入社時に就業規則についての説明もあり、懲戒処分や他の業務の遂行が出来ない場合についての労働条件の記載もある」
「本来なら、日々暴言を吐き、周囲に害を与える事を止める様に言ったにもかかわらず、それを止めない社員に対し、会社がそこまで考慮する必要はなく、本件に対し、いかなる視点を持っても不法行為に当たらない」との回答
さらに、「むしろ、会社側が被害者であり、訴えること自体が筋違いである」とまで言った。
逆に訴えた社員が賠償命令を食らい撃沈し、ニュースに大きく取り上げられてしまった。
そんな訳で、その煽りを受けたかどうかは不明だが、これまでに10人も辞めていった訳で、新しい仕事の計画が立っているにもかかわらず、人材不足で頓挫しているのである。
「…この部署、そんなに嫌かね?」
思わずボソッと言ってため息が漏れた。
そうすると、彼女は少し困った顔をして、こう語った。
「私は嫌いではないですよ、以前は死にたくなるぐらい、前の部署でイジメられましたので…あれから比べれば全然マシです。」
彼女の名前は上崎咲、東大卒業後この会社に入社、その後、同僚にイジメられて半年前に自殺未遂したのだ。
その事が、会社内で大問題となった時に、俺が中途採用で入社、まず最初に行った仕事が、なんとブラック社員対策だった。
本来なら、会社の雑務を経験してから、どこかの部署で平社員なのだが…社長に社内での問題点の対策を提案したら、いきなり課長、そしてあっという間に部長職。
しかし、わざわざ雑務課まで作り、そこに次々とブラック社員を放り込んで来るのはどうかと思うよ。
「そう言えば、咲ちゃんはこの部署に異動してから3ヶ月位だったかな?馴れた?」
「そうですね、またイジメられるかと最初は不安でしたが…今は楽しくやらせてもらってます。」
「そいつは良かった。…しかし、この前の三人組なんて偉そうな事を言うくせに、結局たいした事出来ずに、すぐ辞めるしなぁ…教育する時間と労力、返してほしいわ。」
「部長、あまり気にしない方が良いと思いますよ。それに管理職の方々が、雑務課は駄目社員処分場、まで言われてますので…。」
「酷い事を言うなぁ…しかし、ここまで酷い社員とは思わなかったよ。」
「勉強が出来る方と、仕事が出来る方は別ですので、難しいですね。」
「…使えないブラック新卒を、よくこんなに採用したもんだ、下手したら会社傾くぞ!」
「ですが、そのお陰で部長の評判はかなり良いですよ。」
「知ってるよ!ついについたアダ名が必殺掃除人だろ!」
咲はクスクス笑っている。
しかし…今のところ、雑務課の仕事はトイレ掃除と玄関掃除、後は、それに関するレポートだけで、雑務課が出来た当初よりは倍以上楽なはずなのだが…まともな人員が増えない。
「これでは、新たに仕事を増やす事も出来んな…。」
そうつぶやきながら、書類を片付け、本日の仕事が終了した。
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