第33話 このゲームの舞台である聖女学園へ

 いかにも乙女ゲームのプロローグが始まりそうな感じの場所だ。


 聖女学園の大きな門をくぐると、円形の広場があり、その真ん中に噴水があった。

 キービジュアルに描かれるはずだわ。絵になるもの。

 



 ……それにしても。

 この風景に見覚えがあるのが恐ろしい。

 まさにゲームの舞台そのものだから仕方がないんだけど。





 とうとう聖女学園の代表者との打ち合わせの日を迎えてしまった。


 私たち四人は、いつもの学園の制服とは違い、国の公式行事等で騎士が着用する制服を着ている。

 しかも聖女学園までは、ロレンツォの家が馬車を出してくれた。

 さすが公爵家に次ぐ侯爵家だ。抜かりない。

 徒歩で聖女学園に来る人間なんていないんだねー。




 ちなみに、聖女学園には寮などなく、生徒は皆、通いだという。

 みんな箱入り娘だからねー。


 さすがに今日は休日だからダフネはいないと思うけど、ここはダフネの生息地。

 どうしても嫌な予感が拭えない。

 


 今日は、面倒な実行委員を押し付けられたモブ令嬢たちとの打ち合わせ。

 ダフネと顔を合わせる可能性は低い。

 そう自分に言い聞かせて歩く。





「皆様、ご機嫌よう。我が学園にようこそ。それではご案内いたしますわ」


 着飾った令嬢がいるなと思ったら、彼女はチラッと私たちを見て、口先だけで挨拶を済ませた。

 シルヴァーノが挨拶を返そうとしたのに、聞く気がないらしく背を向けて歩き出した。


 うわっ。いきなり失礼。

 え? モブでこれなの?

 じゃあダフネなんて、とんでもなく傲慢なんじゃない?

 会いたくないなー。






 私たちが案内された部屋は、「宮殿かよっ」とつっこみたくなるくらい豪華絢爛な部屋だった。


 両側に十人ずつ座れるような大きなテーブルに、四人ずつ向かい合って座った。

 お茶を出してくれた聖女学園専属の使用人も、この学園に相応しい仕立ての良い制服を着ていた。


 出されたお茶に口をつけてもいいのかな? ――っと周りを見て、異変に気がついた。



 聖女学園のご令嬢方が、揃いも揃って顔を真っ赤にして、のぼせたような顔をしている。

 上座に座っているリーダーらしき令嬢が、声を震わせながら尋ねた。


「あ、あの。もしや。ロレンツォ様でいらっしゃいますか?」


 なんだよ。なんだよー。

 ハッ! ロレンツォにメロメロかよー。


 まあ、今日のロレンツォは、そりゃあ儀式用の制服が似合っていて、見慣れているはずの私でも、ちょっと直視できないくらいに格好いいけど。

 あと、あれだな。

 中等部を卒業して三ヶ月くらい経っているから、最後に会った時よりも背が伸びて、イケメンに磨きがかかっているかもだけど。


 私たちを案内してくれた令嬢までもが、ポーッとなって見惚れている。

 おいおい。

 今頃気がつくってどういうこと?

 さっき会った時は、こっちの四人の顔もまともに見ていなかったってこと?



 それにしても、シルヴァーノだってイケメンなのに。

 どうしてロレンツォだけがそんなにスポットライトを浴びる訳?


 ……そっか。

 これが乙女ゲームの仁義なき世界設定なんだ。


 つまり、シルヴァーノは攻略対象じゃないから。

 だからモブ令嬢の目には映らない。

 ひゃあー。徹底しているなー。

 ここまで扱いが違うんだ。




 ロレンツォは例の如く軽く目を伏せて、「シルヴァーノ。まずはリーダー同士で始めてくれ」と振る。

 ロレンツォがしゃべった途端、向かいの令嬢たちが、「きゃー!!」と、心の中で叫んだのがわかった。



「それでは。私はシルヴァーノ・エルコラーノだ。まずは士官学園の実行委員を紹介させていただこう――」

「結構ですわ。私たちはあなた方と慣れ合うつもりはございませんから」


 向こうのリーダー、きっつ!

 そんな風に相手の発言を遮るのはマナー違反でしょうに。

 育ちの良いお嬢様がされることじゃないでしょう?



「今日は先生方の手前、顔合わせをさせていただきましたが、今後は書簡でお願いします」

「書簡ですか? それでは時間がかかると思いますが」

「特に協議することなどないはずですわ。前年同様でよろしいではありませんか」


 やる気ないんだねー。



「それでは、こちらで確認すべき事項があれば書簡を送らせていただきますが、急ぎの場合は――せめて、代表者同士で協議させていただきたいのですが」


 頑張れシルヴァーノ!



「でしたらその時は、代表としてロレンツォ様にお越し願えますかしら。皆さんの中では侯爵家が一番高位でいらっしゃるでしょう? ロレンツォ様でしたら歓迎いたしますわ!」


 はん?

 シルヴァーノとロレンツォも、露骨に表情を歪めて抗議の意を示したが、令嬢方には全く伝わっていなかった。

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