第28話 みんなが私のために

 泣き疲れたせいか、意外にもぐっすり眠って目が覚めた。

 気持ちも随分落ち着いた。



「よく眠れたみたいね」


 ナタリアちゃんは既に身支度を済ませている。


「おはよう。もしかして、私、寝坊しちゃった?」

「ううん。私が早く起きちゃっただけ。それに――。今日は臨時休校なんだ」


 臨時休校……。

 完璧に私のせいだな。

 あれから何がどうなったのか、少しは明らかになったのだろうか。



「お互い……色々気になることがあるでしょ。朝食が終わったら、一班のメンバーで集まることにしたの。今日は、シルヴァーノとロレンツォがこっちに来ることになったから」


 そっか。きっと昨夜のことは噂になっているよね。

 私が男子寮に行けば、好奇の目で見られるだろうし……。彼らも気まずいよね。






 シルヴァーノとロレンツォは、女子寮にいるということに対して、特に何も感じていないらしい。

 ドギマギしているところを見られるかも、と少しだけ期待していたのに。

 ちょっぴり残念。

 談話室を初めて使う私の方が興奮しているくらいだ。



 誰の趣味かわからないけれど、壁紙も家具も何もかもが実に可愛い。

 ピンクと白で飾られた甘々の部屋に、精悍なシルヴァーノとクールなロレンツォは不釣り合いだ。


 イジりたい気持ちを抑えて、私はずっと言いたかったことを、言わなきゃいけないことを言った。



「まずは謝らせて。本当にごめんなさい。私の思い込みと勝手な行動のせいで、みんなマヌエル団長に叱られたんでしょ?」


「いや。みんなで話し合って決めたことだ。君の提案を受け入れたのだから、ニコレッタ先輩に相談したことは謝らなくていい。ただ――」


 シルヴァーノに真っ直ぐな目で見られると、消えてしまいたくなる。


「相談した結果は教えてもらいたかったし、その後の行動についても、一緒に考えさせてほしかった」


 ……確かに。

 ちゃんと相談すればよかった。

 私はゲーム世界について知ったかぶって、ニコレッタ先輩を盲信しちゃったんだ。


 私がこのゲーム世界を舐めていたせいでもあるんだけど。

 そうなんだけど。

 でも、あの見た目と性格で悪役だなんて!

 普通、味方だと思うじゃない?



「オレたちに謝るんじゃなくて、ナタリアに感謝するんだな。彼女が知らせてくれたんだ。処罰覚悟で規律を破ってな」

「え?」


 ナタリアは、「そんな大袈裟な」と言って笑った。


「私は別に……。男子寮に光のキューブを飛ばしただけよ。そしたら二人が飛び出してきたの」

「窓の外に、直前に見せられたキューブが山ほど飛んでいたんだからな。大量の呪い袋かと思って慌ててしまったんだ」


 そう言うシルヴァーノの横で、ロレンツォがムスッとしている。

 ロレンツォが慌てているところなんて想像できないな。



「それで二人を捕まえて、カッサンドラが学園の外に出て、知らない人に会いに行ったって話したの。ロレンツォったら、そのまま走り出すもんだから――」


「ゔ、ゔん!」


 ロレンツォが照れ隠しのような、変な咳払いをして私を睨んだ。

 あれ? 赤くなっている?

 いや、ロレンツォだし、違うか。



「まあ私は元々後を追うつもりだったから、そのままロレンツォと一緒にカッサンドラを追いかけようとしたんだけど。冷静なシルヴァーノに言われたの。『オレはマヌエル団長に報告してから追いかける。分かれ道をどっちに行ったかだけ目印を残しておいてくれ』って」


 なんか意外。

 冷静なのはロレンツォで、シルヴァーノの方がすぐに熱くなると思っていたのに。

 ちゃんとリーダーとして成長していたんだな。

 役割が人を作るってやつか。



「まあ、幸いマヌエル団長がすぐに事態を把握して、馬を出してくれたから追いつけたんだ。あそこまで馬を飛ばせる人はいないんじゃないかな。団長の後ろに乗るのは二度と御免だが――。ああ、あと。光の矢印は助かった。結界魔法を使ってあんなことも出来るんだな」


「その場で思いついたの。これまで立方体しか作ったことがなかったんだけど、せめて向きを示せないかと思って」


 すごい! ナタリアちゃん!

 咄嗟にイメージで応用したんだね。



「途中、交戦しているのが見えて焦ったんだぞ。あの時のマヌエル団長の背中からはドス黒いものが出ていた気がする」


 怖っ!

 きっとあの青色のオーラが濁ってメラメラと燃えていたんだ。

 見たくない。絶対に見たくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る