第29話 湿っぽい展開はお断り
「やっとナタリアたちに追いついて、君を見つけたと思ったら、死体があるし――あ、いや。すまない」
「ううん。謝らないで。騙された私が馬鹿だった。まかり間違えば、私が転がっていたかもしれないんだし……」
ずっと厳しい表情をして押し黙っていたロレンツォが口を開いた。
「それでいったい誰がやったんだ? お前の命の恩人はどこの誰なんだ?」
その整った顔で詰問するような口調はやめてくれないかな。
めちゃくちゃ心臓に堪えるんですけど。
「私もびっくりしたんだ。ちょうど運よく通りかかった方がいて。その方がすごい使い手で、もう驚いたのなんのって。うーん。いったいどこの誰なんだろう?」
「はあ?! 何だそれ! 名前を聞くとか、普通するだろ」
ロレンツォだけじゃなく、シルヴァーノもナタリアちゃんも、同じように、呆れたような驚いたような顔をしている。
「あは。あははは」
……普通。普通かぁ。どうしよう。私、普通が苦手みたい。
「死んだ男の身元もそうだが、その偶然通りがかって君を助けたという人物の調査も、遅々として進んでいないらしい。上層部は焦っていると聞いた」
シルヴァーノってば、本当にリーダーって感じ。
そういう情報もちゃんと入手しているんだ。
「馬鹿みたいに『へえー』って顔をしているが、お前……。どうせすぐに、マヌエル団長に尋問されるんだぞ。そんなアホ面をしていると、手荒いやり方に変更されるかもしれないな」
もうロレンツォ。脅かさないでよね。私、一応、襲われた被害者でもある訳だし。
「尋問? 手荒いやり方って……。そんな。生徒相手にまさか……」
いや、あり得る。あり得るかも!
あのマヌエル団長ならあり得る!
ヤバい。ヤバい。ヤバい。
私が目を白黒させていると、シルヴァーノが思い出したように切り出した。
「それより、ニコレッタ先輩のことは聞いたか?」
ナタリアちゃんが、チラッと私を見てから黙ったまま俯いた。
みんな気遣ってくれているんだな。
私は私なりに結論を出しているんだけど。
あの手紙も――。
ニコレッタ先輩から渡された手紙には、「塵一つ残すな」とだけ書かれていた。
その手紙は、マヌエル団長から上層部へと渡っていることだろう。
重たい話は、リーダーとしてシルヴァーノが請け負うらしい。
「おそらく、呪い袋を置いた犯人はニコレッタ先輩だ。それが証拠に、昨夜から姿が見えない。君に見つけられたから排除しようと目論んだのか、
……ある。
それに、あの男にはっきりと言われた。私が目撃してしまったからだと。
あのブツは相当ヤバい物だったんだ。
それを入手しているニコレッタ先輩を見ちゃったから。
ああでも。その時のランニングの話はしたくないな。
――ってか、こういう湿っぽい展開は却下! 却下だ、却下!
本編の圧力かもしれないけれど、私が力を発揮できるアナザーストーリーでもあるんだから、抗ってみようじゃないの!
だいたい、女生徒があんなゴロツキと繋がっていて、口封じに下級生を亡き者にしようなんて、そんなサスペンスだかミステリーだかの要素を入れないでよね!
シナリオライター出てこーい!!
……とにかく。
ここでこれ以上、この事件を膨らませる訳にはいかない。
私は心当たりについては言わないことに決めた。
ニコレッタ先輩がこの後どう動くかわからないけれど、今後はセンサーで感知するもんね。
だから辛気臭い話はやめて、乙女ゲームの世界らしく、「うふふふ」「あははは」のラブコメ展開を希望します。
「……お前。今、全然違うことを考えていただろ?」
「うぇええっ!」
しまった。驚きすぎた。
「はいそうです」と言ったようなものだ。
ろ、ロレンツォ君。なぜわかった?
「それにしても。いくら先輩に言われたからって、まさか学園の外へ出るとはな……。お前は何を考えているんだ。どう考えてもおかしいだろ。そんなこと言われて、『はい。わかりました』って出ていくやつがあるか。普通は無理だって断るだろ」
そうなんだー。そこまで常軌を逸した行動だとは思わなかったよ。
ロレンツォはイライラした様子で、非難がましい目つきで私を見ている。
「……お前。わかっているのか? 寮を抜け出すことと、学園を抜け出すこととは、処罰は処罰でも天と地ほどの差があるんだぞ」
ギクッ。
「うぅ。本当にごめんなさい。みんなまで私のせいで」
「いや。処分のことは別にいい。嫌なら出ていかなければよかったんだからな。オレたちは自分の意思で君を追いかけたんだ。気にするな」
「そうよ。カッサンドラ」
「まあ。それはそうだ。それに俺たちの場合は、緊急事態に対処した訳だから、お前みたいに勝手に抜け出したのとは違う。寛大な処分が下されるはずだ」
最後のロレンツォの言葉は回りくどいけど、要するに「心配するな」ってことだよね。
「み、みんなー」
大好きだよっ。
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