第26話 こんな状況でまさかの再会
「……お前。何をした?」
「何」って言われても。
「頑強なバリアでバーンって弾き返してやったぜ」って言ったところで通じないよね。
「あれれー? もしかして、お困りですかー?」
切羽詰まった場面に似つかわしくない明るい声で、誰かが話しかけてきた。
木の枝に引っかかった風船を見て泣いている子どもの母親に話しかけるような感じ。
……ちょっと違うか。
「おやおや。これはこれは。あなたでしたか。夜しか活動されないのですか」
あれ――誰だっけ? 見たことあるような、ないような?
「もしもーし。もしかして……。私のことをお忘れですか?」
「あは。あははは」
誰だっけ?
「えー。傷つきます。そんなに印象薄かったですか? それとも、やはり名乗らないような相手など、記憶に残す価値はないとお考えですか?」
あー!! 思い出した。森で会ったメガネイケメンだ。
……。
……。
……私。こんなイケメンを前にしているのに、ちっとも驚いていない。
もうすっかりイケメンに慣れてしまっている。
……ショック! イケメンって、慣れるものなの?
「お一人で百面相をしているところ悪いんですが。その反応は、思い出していただけたということで合ってます?」
「あ、合ってます。すみません。すぐに思い出せなくて」
「そんな風に正直に言われると、ほんと傷つきます」
「うわっ。本当に申し訳ないです!」
メガネイケメンさんが、「ふん」と拗ねたような顔をしていると、横から怒鳴り声が聞こえた。
「お前ら何をごちゃごちゃしゃべっていやがる! 一人で来るはずだろうが。ちっ。話が違うじゃねーか」
あ。忘れてた。この悪党めっ!
男は、折れた剣を投げ捨てると、隠し持っていた新たな剣を抜いた。
「え? スペア?」
スペアを持っていたんだーと驚いたことで油断してしまった。
あ、と思った時には、男の剣が私の胸に迫っていた。
「闇夜を切り裂き火の鳥のごとく飛べ! 灼熱の矢っ!」
え? ええっ!!
メガネイケメンさんが早口で唱えると、炎をまとった矢のような棒が、男の腕を貫いた。
「ぎゃあーっ!!」
男は腕を押さえてのたうちまわっている。
ううっ。グロいもの見ちゃった。でも助かった。
それにしてもすごい早技。あ、これが普通の大人の魔法なのか。
メガネイケメンさん……。
めっちゃ軽そうな人だけど、こんな風に簡単にやっつけちゃうなんて。
か、格好良すぎる!
にこっと微笑むメガネイケメンさんにお礼を言おうとしたら、彼が突然、私に飛びかかってきた。
「へ? ええっ!? ちょっ、ちょっ」
私の体をすっぽりと覆っているメガネイケメンさんの体は、燃えているように熱い。
これって――魔法を使っている?
そういえば、私に飛びかかってくる時、何か叫んでいたような……。
あれって呪文?
メガネイケメンさんが私を体から離すと、「なるほど」とつぶやいた。
彼の視線は地面に転がっている男に向けられていた。
「え? あの人」
「見るんじゃありません」
再びメガネイケメンさんが私の頭を胸に抱き寄せた。
「どうやら私があなたを選ぶと読んで、あの男と君を同時に攻撃したのでしょう」
「それって――」
「口封じ……ですね」
口封じ。そんな。
「あのフードの女性に見覚えは?」
メガネイケメンさんの言うフードの女性は、向こう岸にいた。
私はそのシルエットを見ただけで、すぐに視線を落とした。
「あー。行ってしまいましたね」
行ってしまった――。
どこへ行ったのだろう。
彼女に行く宛があるのだろうか。
「こんな時間ですし、お送りしましょうか」
「え?」
まるで合図したかのように馬車が近づいてきた。
暗がりでも、その豪華さはわかる。相当な家の馬車だ。
馬車の窓から、中にいる人が見えた。
こっちをガン見しているのは、あの超絶イケメンだった。
上位貴族に違いないと思ったけれど、互いに正体を知らない間柄なので、軽く黙礼をしておこう――と思ったら、ぷいって横を向かれた。ええっ?
「ああ、救援隊が来たようですね」
メガネイケメンさんは私の手を取ると、励ますようにぎゅうっと握ってくれた。
「どうもあなたとは縁があるようです。きっとまたお会いできるでしょう。お互い、名乗るのはその時にしましょうか」
そう言って彼は、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
メガネイケメンさんが馬車に乗り込むと、すぐに馬車は走り出した。
「では私たちは退散します。夜道はくれぐれも気をつけてくださいねー」
去り際のメガネイケメンさんは、やっぱり軽かった。
私以外の貴族で、あんなに大きく手を振る人を初めて見た。
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