第24話 王位継承権争いをしているらしい

「バルトロ王と亡きプリシラ王妃との間にお生まれになったのが、コルラード王子。後添えとなられたアルマ王妃との間にお生まれになったのがフランコ王子。現在の王位継承権の一位は第一子であられるコルラード殿下だ。コルラード殿下を支持する勢力は、いわゆる保守派だな。最初に生まれたお子に継がせるべきという考え方だ。フランコ殿下を支持する勢力は急進派と言われている。生まれた順ではなく、能力の高い子が跡を継ぐべきという考え方だ」



 そういや王子様も出てくるんだった。

 ん? ダフネの婚約者が王子だったような……。あれ? 違うか。

 くぅー。もっとちゃんと見ておくんだった!



「えーと。つまり、フランコ殿下の方がコルラード殿下よりも優秀ってことなの?」

「ふっ。そうであれば簡単だな」


 うっかり口を出した私をロレンツォが鼻で笑った。悔しい!



「コルラード殿下については、正直よく知らない。ほとんど公の場に出てこられないからな。だが、それはアルマ王妃の策略で、我が子可愛さのあまり王宮から遠ざけているという噂もある。確か、今年で二十歳になられるはずだが、まだご婚約もされていない」


「そういえばそうだったな。病弱で、静養のために王宮を離れているとしか聞いたことがないが。フランコ殿下はロンバルディア公爵家のご令嬢と婚約されているというのに、おかしな話だ」

「ダフネ嬢と婚約されたのは、フランコ殿下が十四歳の時だったな」


 ……今。

 ダフネって言った?

 ああどうしよう。この体が覚えているのかな。なんか、震えが止まらない。

 

 それにしても驚愕の事実。そんな設定があったなんて。

 あれ? ちょっと待って。王子が二人いる。

 じゃあダフネの狙いは、自分の婚約者の地位を脅かすコルラード王子ってこと?


 カッサンドラは、先妻の子のコルラード王子を暗殺するための駒に使われたのね。


 じゃあコルラード王子が、私にとっては死亡フラグそのものだわ。

 どんなことがあっても避けなくっちゃ。

 まあ、それはアナザーストーリーが本編にかすった時の話だけど。



「カッサンドラ。どうしたの? 顔色が悪いわ。続きは明日にする?」

「ううん。今頃になって、この呪い袋の意味がわかって怖くなっただけ。いいから続けて」

「本当に大丈夫?」


 大丈夫なのかな? でも、今日中に対処する方針を決めておきたい。



「うん! ほら! 平気平気!」


 おどけてみせたけど、三人とも黙りこんでいる。


「私たちは関係ないかもしれないけれど、私なら正しい方に味方したいな」


 私が無理してはしゃいで言うと、ロレンツォが呆れた顔で諭すように言った。


「いい悪いじゃない。を支持するかという話だ。今回の件とは関係ないかもしれないし、どっちかの陣営が、ナタリアの力を恐れてやったことかもしれない。あまりにも情報が少な過ぎて、現時点では判断できない」


 シルヴァーノが「弱ったな」とこぼした。



 それは弱った。本当に参った。どうしよう。

 でも私たちだけじゃ手に余るどころか、太刀打ちできない。

 味方が必要。じゃあ誰が味方なのか。どうやって判断すればいいのか――。

 それは――。



「ふっふっふっ」


 それは――見た目で判断できるのでは?

 だって、このゲームのキャラデザ半端ないもん。

 悪役はぜーったいに、これでもかっていうくらいの悪人顔にしているはず。

 そうだ! いたじゃないの! 悪人顔!



「私、わかっちゃった。入学式の時、ものすごい悪人(顔)がいたのを覚えてる。薄暗がりの中、背中を丸めて、『イヒヒヒヒ』って笑っていそうな人がいた。だから逆に、その人と仲の悪い人に相談すればいいんだわ」


 ん? 賛同が得られない?


 「なるほど!」とか、「そういえばそんな奴いたなー」とか。

 そういう反応が返ってくると思ったんだけど。


 ああそうか。

 この、「キャラデザに着目する」というのは、転生者である私しか思いつかないことなのね。



「どの口が言ってんだ? さっきは、マヌエル団長ですら信用できないって言っていたくせに。怖い顔の奴が犯人で、そうじゃない奴に相談しようって。正気か?」


 ロレンツォに何を言われようと、痛くも痒くもない。


 ふっふっふっ。

 ゲームシナリオにガチガチに支配されているキャラあなたたちと違って、私は自由な発想ができるから。

 まあ、理解できないのも無理はないわね。



「まさかとは思うけど。カッサンドラの言っている人って、ガスパロ様のことじゃないよね?」


 ナタリアちゃんが恐る恐る名前を出したけど、ガスパロって誰?


「おいおい。よりにもよってそれはないだろ。あの方を疑うとはどういう神経をしているんだ」

「年寄りは表情が読みにくいだけだろ。笑わないからって悪人って決めつけるなよ」


 えー。みんなどうしてそんなに庇うの?

 でも、もう私は決めたもんね。



「ここはズバリ。ニコレッタ先輩がいいと思う。まずは相談という形で先輩に話したいな」

「ニコレッタ先輩?」


 ナタリアちゃんが、「うーん」と考え込むと、意外にもロレンツォが、「いいかもな」と賛成してくれた。


「なまじ教官たちに一足飛びに報告するよりも、まずは上級生に相談するのも悪くない考えだと思う。考えたくないが、もし教官が一枚噛んでいた場合、運悪く報告した相手が犯人側にくみしていたなら、その場で口封じ――なんてことにもなりかねない」


「なるほどな。上級生なら俺たちよりも教官の評判を知っているだろうしな」


 シルヴァーノがうなずいたことで決まった。ナタリアちゃんが反対しても、三対一だからね。


「決まりね。じゃあ、戻ってニコレッタ先輩に相談してみるわ!」



 私に人を見る目なんてない。

 でも、前世の経験から、女性が持っている特有の、あの、「嫌な感じ」はわかる。

 ニコレッタ先輩に、その「嫌な感じ」は感じなかったから大丈夫だと思う。



 こうして私とナタリアちゃんは、夕食前にこっそり上級生の部屋を訪ねることが決まった。

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