第19話 とんでもない失態をおかしてしまった
最初にその正体を暴いたのはロレンツォだった。
「あれは――。グリンブルスティか?」
何ですかソレ?
――ってか、ここからよく見えたね。
それにしても博識なやつめ。
出来る男なのか? まあ、出来る男だよね。
私以外は、ロレンツォだけでなくシルヴァーノもナタリアちゃんも、学科の成績が優秀なのだ。
四つの班の中で、何気にトップに君臨している第一班なのだ。
「おい! 冗談はよせ! そんなものがこの森にいる訳がな――ああっ!?」
ええ? ちょっとシルヴァーノ。何なの?
そのノリつっこみみたいな流れは。
「あれがそうなのですか? 初めて見ました」
ナタリアちゃんはどこか感動すらしている?
シルヴァーノとロレンツォも、「あんな大きなものだったのか」とか、「スピードについては定説と違う」とか、観察モードなんですけど。
「に、逃げなきゃ! ヤバいって!!」
私が必死に訴えたのに、ロレンツォは、「なんで?」と、目で問いかけてきた。
あんなスピードで獰猛な走りをしている大型生物が、危険でないとでも?
ギラギラの目をした豚鼻の四足獣じゃないですか!
うわー。これも一連の不幸ってやつですか?
死神の飼い犬ならぬ飼い猪ですか?
「カッサンドラ。大丈夫よ」
「どこがっ!」
ナタリアちゃん!
ヒロインなのに、危機意識がなさすぎですよっ。
「落ち着け。アレの行く手にはマヌエル団長が待ち構えている。きっとすごい技が見られるぞ!」
シルヴァーノは子どもみたいに目を輝かせている。
うちのリーダーときたら、この状況を楽しんでいるの?
突如、ダダーンと大きな音がして、巨大な火柱が上がった。
「うわっ」
地面が揺れた。
そして火柱が消えた後、巨大な猪が一瞬で丸焼きにされたことがわかった。
「おい見たか? 今の! なあ、ロレンツォ! あんなの魔物討伐隊に同行しないと拝めない代物だぞっ!」
「まあそうだな。王都であんな魔法を発動させたなんて話は聞いたことがない」
さすがマヌエル君。だてに天才なんて呼ばれていないんだね。
「あのう」
バツが悪そうに、ナタリアちゃんが私たち三人の顔を見た。
「マヌエル団長の唇を読むに、『至急こちらに戻れ』と。『直ちに合流しろ』とおっしゃっていますけど」
「おっと。勝手に離れたんだったな。よしっ。一班も本隊に合流だ。行くぞ!」
無駄に生き生きするリーダー。
面倒くさそうな割には、「そうだな」と返事をするロレンツォ。
いつの間にか、まとまっている。
「じゃあ戻りましょう。もう怖くないでしょ?」
そう言ってイタズラっぽく笑うナタリアちゃんに、私はコクンとうなずくことしか出来なかった。
「ようやく戻ったか。一班」
怯えている生徒たちの前で、マヌエル君は、両腕を組んで仁王立ちで待っていた。
「はいっ。一班四人とも、ただ今戻りました」
ここはリーダーのシルヴァーノに任せておけば大丈夫かな。
「お前らはアレに気がついて逃げたのか?」
「はいっ。カッサンドラが最初に勘づきました。俺たち三人は急に走り出した彼女の跡を追うので精一杯でした」
「ほほう。よく察知したな。だが――」
マヌエル君の顔が、一瞬で鬼の形相に変化した。
「逃げるとは何事だっ!!」
そうだった!
仮にも騎士を目指そうという者が逃げるなんて。
ああ、みんな、ごめーん。
私のせいで、四人ともが逃げたみたいになっちゃった。
他の生徒たちが見ている前で、私たちはマヌエル君からこっぴどく叱られたけど、ナタリアちゃんもロレンツォもシルヴァーノも、一言も言い訳をしなかった。
誰も私を責めないなんて。
ちょっと感動で涙が出そう。
「カッサンドラ! お前、まさかこれしきのことで泣いたりしないだろうな!」
「はいっ! もちろんです。マヌエル団長! もう死ぬほど感動して、みんなに抱きつきたいくらいですが、涙は流したりしません!」
「はあん?」
え? なぜ三人に睨まれているの?
「一班以外は講義棟へ戻れ。一班の四人は、このままここで演習を継続する」
ニタっと笑ったマヌエル君に、三人が、「ほらみろ!」という顔をする。
ああ。なんかまずかったのね。重ね重ねごめん!!
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