第14話 え? モブの私が最強ですって?!

 結局、男子は次から次へと地面に転がされ、ナタリアちゃんの番になった。

 彼女は、両手でしっかりと剣を握って構えると、覚悟を決めて一歩前に出た。


 ……すごい。このシーン素敵。絵になるわー。なんて凛々しいの!


 真後ろで惚けたように見ていると、いきなりカーンという音がして、ナタリアちゃんが片膝をついていた。



「えっ? 終わり?」


 ナタリアちゃんが地面に転がらなくてよかった。

 それに、みんな剣を弾き飛ばされていたけど、彼女は剣を持ったままだ!


 さっすがヒロイン! 強い!



「まあまあだな。入学早々、俺の剣を受け止めた生徒はお前が初めてだ」


 でしょう? やっぱり違うでしょう! ナタリアちゃんは特別なのですよ。

 何だか私が褒められた気分。

 私とナタリアちゃんは、二人で一つみたいなものだから!



「よし。次で最後だな。来い」


 ……あ。そうでした。


 剣を持って歩くのもしんどいので、剣先を地面につけたまま引きずってマヌエル君の前まで行った。


 みんなの視線の意味は大体わかりますよ。マナー違反って言いたいんでしょ。

 でも、こんな重いもの、どうしろっていうの!


 近くで見ると、マヌエル君の体全体から、「コテンパンにしてやるぞ」オーラが出ていた。


 これが慣れ親しんだ竹刀しないなら、私だって一矢報いるチャンスがあるのに。悔しい。

 せめてもう少し軽ければ……。はあ。




 「参りました」宣言をしようかと思った時、いつもコーチに言われていたことを思い出した。


 どんな相手でも、イメージトレーニングで負けるようじゃ勝ち目がないと。

 


 そうだ。イメージ。イメージすなわち想像。私の得意とするところ。


 イメージの中では、私は最強。

 この剣も軽々と振れるし、マヌエル君の剣もはっきりと見える。



「私は最強。はっきりと見える……」


「何をぶつぶつ言ってるんだ! 早くかかってこい!」


 よっし。最強の私がシュシュシュッと剣を振るうんだ。


「行きまーすっ!」


 カーン。カーン。



 ぐわんと体にのしかかるような大きな力に押されて、私は二、三歩後ずさった。



「うおおっ」

「なんだ? あの音は?」

「打ち合ったのか?」


 え? なんですって?



「まさか二人もいたとはな……」


 渋い表情のマヌエル君。

 本気で私を地面に転がそうとしましたね!



「む!」


 ……あ。

 私、ちゃんと剣を持っている。それに立っている!


 あれ? 何だか本当に剣が軽かったし、マヌエル君の剣がはっきりと見えた気がする。

 イメージしたことが現実になった?


 体内がカーッと熱くなっている。魔法を使った時と一緒だ。

 多分、私の中じゃイメージすることが、イコール魔法を使うことなんだ。


 森での練習で、自然とそういう癖がついちゃったのかな?


 うん? じゃあ、火とか水とか意識しなくても、こうなったらいいなって想像するだけで、それが現実になるっていうこと?


 何? そのチートっぽい感じ……。


「はは。まさか――ね」




「すごーい! カッサンドラ。マヌエル団長の剣を受けて立っていられるなんて! 新入生の中でカッサンドラが一番強かったのね」


 うわあ。そんなこと大きな声で言わないでー。

 黄色髪の男子が鼻の穴を膨らませて私を睨んでいる!





「もう一度さっきの順に並べ。これから四つの班に分ける」


 黄色髪から最後尾の私まで同じ順に並ぶと、マヌエル君は、一人ずつ、「一班」とか、「二班」と声をかけていった。



 ちょっと待って!

 さっきの結果だと、立っていた私と片膝ついたナタリアちゃんがワンツーだよね。

 上位四人は、さすがにバラけさせるよね。


 嫌だー。それは困る。

 ナタリアちゃんと同じ班じゃなきゃ嫌だー。

 こうなったらマヌエル君に念を送ろう。


「ナタリアちゃんと同じ班になりますように」


 私は、組んだ両手に力を込めて祈った。

 祈ったというよりも、呪いをかけたと言う方が正しいかも。

 とにかく必死にマヌエル君に念を送り続けた。



「お前は三班。次。お前は一班。……?」


 マヌエル君が立ち止まって、「うん?」と首を傾げた。




「マヌエル団長の周りにキラキラと何かが降り注いでいる……」


 ナタリアちゃんがそう指摘したけど、私が顔を向けた時には何も見えなかった。


 え? キラキラが降り注ぐなんて、そんなエフェクトが?

 ハッ! もしや、ここがマヌエル君の見せ場?

 じゃあやっぱり攻略対象ってこと?

 マヌエル君てば、メインキャラだったの?!



 そんなマヌエル君が、ナタリアちゃんと私に運命を告げた。


「お前は一班。お前も――。一班だ」


 やったー! 二人とも一班だ!




「だ、団長。マヌエル団長。一班が五人になります」


 黄色髪の指摘に、マヌエル君が、「なんだと!」と振り返る。


「一班! こっちに集合しろ!」


 そう言われて列から抜け出た五人は、互いの顔を見合わせた。


 一班は、私とナタリアちゃんの他に、赤い髪のイケメン、あと入学式で見た黒髪のロレンツォ、それと見るからにモブっぽいマッシュルームカットの五人だった。


 ほっほう。

 ロレンツォ攻略対象は、ちゃーんとナタリアちゃんと同じ班になるんだなー。

 これはひょっとするとひょっとするかも。うっふっふっ。



「よし。足りないのはどこだ」

「はい! 三班が三人です」

「じゃ、お前は三班に変更だ」


 そう言ってマヌエル君が指を差したのは、マッシュルームカットだった。



 やったわ、私。

 ナタリアちゃんと同じ班を死守したわ。

 ……それに。

 ロレンツォがナタリアちゃんのお眼鏡にかなったら、フォローすることもできるわ!

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