第9話 編入試験(付き添いは受付までですよ)

 あっという間に編入試験の日を迎えた。


 

 この日に備えて、夜になるとコソコソと抜け出し森までランニングしては魔法を使うという自主練をしてきた。


 復元魔法とやらはよくわからなかったけれど、「元に戻れ」ってイメージして念じたら復元できたので、誰にも気づかれずに毎夜、練習ができたのだ。

 もちろん部屋の中でも、レンガ筋トレという独自メニューを黙々とこなした。



 我ながら、結構、様になったんじゃないかと思う。

 筋肉隆々とまではいかないけれど、体が引き締まって、腹筋の固さを自覚できるようになった。





 試験会場である士官学園には、父親に付き添ってもらった。

 付き添いは受付までで、そこから先は一人だ。


 受付での別れ際、父親は、


「どんな結果になっても私たちがついている。なあに、駄目だったら聖女学園への入学を改めて申請すればいいだけだ。気負わずに行きなさい」


 と、励ましてくれた。


「はい。ありがとうございます。頑張ります」


 絶対に聖女学園に行く訳にはいかないんだけどね。





 受付で言われた通りに廊下をまっすぐ歩いて突き当たりを右に曲がると、一人の少年が今にも面接が行われる部屋に入ろうとしていた。


「僕っ! 駄目だよ。こっちにおいで」


 明らかにムッとした様子の少年が、ツカツカと私に歩み寄る。

 私より身長が低いのに、思いっきり睨みつけてくる。


 子どもなのに、おませさんだなー。



「僕。駄目だよ。お父さんについて来たのかな? ちゃんと受付で待つように言われたでしょう? さ。早く戻って――」

「はん?」


 ま。お行儀が悪い子ね。お仕置きしちゃうぞー。


「あのね。お姉さんの言うこと、わかるでしょ? こんなところにまで来ちゃ駄目なの」


 少年は、「ふん」と軽蔑するような眼差しで私を見上げると、プイッと踵を返して部屋に入ってしまった。



「ええーっ!」


 せっかく教えてあげたのに。摘み出されても知らないんだから。




 ……………………?


 すぐにドアが開いて少年が追い出されると思ったのに、しんと静まり返ったまま何も起きない。


 どういうこと?

 ……もしや。

 ここの偉いさんの息子だったとか? それでお咎めなし?

 そういう権力構造なの?



 もう、それならそれで。

 部屋の隅っこで少年が遊んでいようと、私は私の仕事をするまでだ。



 息を整えてノックすると、「入りなさい」と部屋の中から成人男性の声がした。


「失礼します」


 そう言ってドアを開けて中に入り、二人の面接官の前に立って一礼する。

 名前を言おうと息を吸って頭を上げたところで、面接官の顔がよーく見えた。



「ぅええっ!?」



 左に座っている面接官は、いかにもという感じの貫禄のある男性だったけど、右に座っている面接官と思しき人物が、さっきの少年なのだ。


「僕!? あれ? え? ぼ、僕は――」



 取り乱す私を落ち着かせようと、左側の面接官が、右手を上げて、「まあまあ」と苦笑した。


「彼はこう見えても私の部下で団長なのだ。マヌエル団長は天才の呼び声高く、中等部の頃から飛び級を繰り返していてね。十六歳にして早くも団長に就任した強者だよ。ああ私は、この学園を任されている近衛師団総司令のカストだ」


 なるほど! ちょっと背が低いだけの天才少年だったかー。あー。やっちゃったなー。


 ――にしても。おいおい。

 いや、ちょっと。



 二人とも、すっごいイケメンなんですけどっ!!



 もうイケメンがてんこ盛りの世界。慣れない。慣れる気がしない。


 カストさんて、いかにもいかつい役職の割には、とっても優しそう。アラサーかな?

 白くて長い髪がゆったりと肩にかかっている。あ、瞳は黒だ。すごい親近感が湧く。

 鼻筋が通っていて、キリッと男らしい眉が総司令って感じ。

 でも眼差しが優しくて、なんだか見ているだけで、ほわんとする。



 対するマヌエル君は、膨れっ面だけど、可愛さが溢れ出ている。

 本当に、よく見ると美少年だわ。


 青味がかった銀髪がツンツンと跳ねていて、まさにって感じ。

 それに、何て綺麗な青色の瞳! 

 ……はあ。吸い込まれそうだわ。


 あ。男の子だもんね。

 私、身長で子どもって判断したから、そりゃあ気を悪くするわ。


 まさか私よりも年上だったとは。

 ――じゃなくて、試験官だったとは!

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