第8話 入学前の自主練(魔法を使ってみよう)

「確か、『魔法はイメージが全て。体を巡る魔力を感じろ』だったよね」


 大木の前に立って、ジーナちゃんのアドバイスを思い出す。


 体内の魔力を感じて、それを具現化すればいいのかな。

 前も魔力は感じられたんだよね。


「集中! 集中!」



 ……あ。なんか、私の、「魔力来い!」っていう要請に応じるみたいに、ぐわんぐわん体の中に魔力が湧き出してくる感じがする。


 じゃあ今度は、この魔力を具体的な物に――。

 何にしようか。

 この前は「風」という目に見えない物を想像しようとしたから失敗したのかも。

 だとしたら、「火」とか「水」とかならイケるんじゃない?


 などと、考えている間も魔力が湧き続けている。

 ヤバい。なんかすごい溜まって凝縮されていくのがわかる。

 早いところ、体の外へ出しちゃいたい。


 火だと森林火災の原因になっちゃうよね。じゃ、水! 水にしよう。


「えーい!!」



 水が木の幹に当たるところをイメージしたら、私が伸ばした手の先から一直線に水が発射され、幹を貫通した。



「……は?」


 え? 何、今の? 私の指先からビームが出たみたいに見えた。

 「えい」って水を打ち付けるイメージをしたら、コンマ一秒ほどで、木の幹に穴が開いたんですけど。


 ああそうか。

 ジーナちゃんは、五歳児でもわかるように、本当に初めて魔法を使う子どもに教えるようなデモンストレーションをしたんだな。


 そう考えると、私は初歩の初歩くらいはマスターできているってことかな。

 十五歳の平均がわからないから何とも言えないけれど。


 判定から六年経っているんだよね。

 Cマイナスの「マイナス」くらいは取れていてもいいんじゃないかな。

 せめてそれくらいは成長していてほしい。



 穴の開いた木に近寄ってよく見てみると、直径三センチほどの穴が開いていた。


「たはっ! あんまり大したことないなー。これ、A判定の人だったら、バスケットボールが通るくらいの大穴が開くんじゃない?」


 あ、でも!

 イメージなんだよね。ボールが通るくらいの穴をイメージしたらいいんじゃない?



「よっし。んじゃ、いっくぞー!」


 今度は、水で出来たボールをイメージして、それを木に投げつけてみた。

 ドッジボールスタイルだ。



「ひえっ」


 本当に水で出来たボールが木の幹を突き破っていった。


 ……私。イメージして魔法を使うコツを掴んだんじゃない? 


「ええー! 私ってば、飲み込み早いんじゃないのー! ふっふー」

 


 よく考えてみれば、ここはゲームの世界なんだ。

 イメージしたことがそのまま本当になるのって、当たり前なのかも。


「あ! じゃあ、ゲームっぽく大技を使ってみようかな。うーん、じゃ、サクッと切り株を残して吹っ飛んじゃえ」


 斧だか鎌だか、とりあえず刃が大木を切り倒すところをイメージしてみた。



「ひいい」


 バッサーンと、あっけなく大木が倒れてしまった。

 イメージ怖っ。


 魔力云々よりも、私の想像力の賜物なんじゃない?

 この世界は、想像力のある人間が最強なのかも。

 魔力が低い分を想像力で補えるんじゃない?

 



「イケる! 私、イケるかも! あとは、筋肉だけ付ければ士官学園でも落ちこぼれずに済むんじゃない?」




 「うっひゃっひゃっひゃっひゃー」と、夜空に向かって高笑いしていると、ガサガサと草むらをかき分けるような音が聞こえた。



 え?! 動物? まさか魔物なんていないよね?

 あれ、いたっけ? 魔物討伐なんてエピソード、あったっけ?



 固まったまま一生懸命に記憶を探っていたら、「やあやあ。こんばんは」と、手を振りながら男性が現れた。



 ……………………! イッケメーン!


 少し癖のある柔らかそうな髪。薄明かりでも金髪らしいのはわかる。ちょっと黄色味が強いかな。

 いや、髪の色なんてどうでもいい。顔面ですよ、顔面!


 メガネ男子の最高峰が現れましたよ! キャー! まさか、攻略対象だったりする?


「いやあ、いったいどんな方がいらっしゃるかと思えば。これはこれは。また意外な――」


「ギャー!!」


 ……………………! 超絶イッケメーン!


 話しかけているメガネイケメンの後ろから、更なる超絶イケメンが現れたので、私は思わず叫んでしまった。


 最初のイケメンとは違う、なんだろ。なんかもう尊い。尊いしか思い浮かばないくらいの造形美。


 この人も金髪だけど、きっとお日様の下で見たら、輝きを放っていそうな、さらっさらの金髪。

 涼やかな目元がヤバい。目が合ったら心臓が止まるかもしれない。


 穏やかそうな表情は、一秒以上は見れない。くぅー。筋肉以前に心臓を鍛えておくんだった!

 あー! 私の馬鹿! 馬鹿ーー!



「え、ええと。驚かせてしまってすみませんね」


 ニコッと笑ったメガネイケメンは、素早く私の全身を見て、「ふむ」と、右手を顎の下に付けて腕を組んだ。


 それが、彼なりの考える時のポーズなのかな。



「あなたはいったい……。それにしても……。しばらく留守にしている間に、王都ではそのような服が流行しているのですか?」


 あー。やっぱり?


 トレーニングウエアって、この世界の常識からは外れているよね。

 流行なんて間違ってもしていないので、ちゃんと訂正すべきかな。


「あ、あの」


 私が口を開くと、二人のイケメンがビクッと反応したので、私までギョッとしてしまった。


「え、えっと。その。これは、この服は何というか、その――」


 メガネイケメンが私の言葉を遮った。


「お嬢さん――ですか? なぜそのようなお姿に?」


 あ! そういうこと?

 見た目で男性だと思った訳ね。服装も髪型も男性だもんね。

 なのに、声を聞いたら女性なので驚いたって訳ね。


 うーん。こうして見つかると、本当に説明が難しいな。

 見つからない前提だったから、何にも考えてなかった。



「あー。そのー。これはただの練習着なのです。こんな格好をしているのには訳があるのですが、差し障りがあるのでお答えできません」


 キッパリ。

 子どもじみた訳のわからない回答。

 でも見た目も子どもだから、相手にするのをやめようって思ってもらえるとありがたい。



 そしてありがたいことに、メガネイケメンは、「ぷっ」と吹き出すと、「あっはっはっ」と笑って察してくれた。



「これは失礼しました。見ず知らずの者に、おいそれとお話くださる訳がありませんね。私どもも差し支えがありますので、今日のところは名乗らず失礼させていただきます」


「はっ、はいっ。こちらこそ失礼しました」



 なんとなく後ろの超絶イケメンも微笑んでいたような気がするけど、肩越しに一瞬盗み見ただけだから、わからない。


「じゃあ、練習がんばってください。ああ。ただ――」


 イケメンがイタズラっぽく笑うと、彼の目が光った。

 そして、何かぶつぶつとつぶやいて両手を空中に向けて差し出すと、ほんのりと黄色く色づいたベールのようなものが辺り一面に広がった。


 えー。何これ……。綺麗……。



 見惚れていると、ゴゴゴゴと音を鳴らして地面に倒れていた木が起き上がった。


「うぇええー!!」


 素っ頓狂な声を出してしまったけど、仕方がないと思う。

 だって、起き上がった木が切り株の上にちょこんと乗っかって、元の大木に戻ってしまったんだから。



「ふふふふ。ちゃんと回復しておかないと、他の人が練習できませんからね。復元魔法も合わせて練習されることをお勧めしますよ」


 えー。もう! 格好よ! 格好よすぎるー!


「それでは。お邪魔しました」


 そう言って背を向けて去っていく二人。

 後ろ姿も凛々しい。体型までもがイケメン!




 気がつくと、「はあ。はあ」となぜか肩で息をしていた。

 なんだか激しく体力を消耗している。イケメンにあたったせい?



 ……それにしても。

 目の前の森は、私が来た時と同じ状態に復元されている。

 成人男性なら誰でもこれくらいは出来るのかな?

 



「はあー。疲れたー」



 でも、今日、はっきりとわかった。


 アニメだと、できたイケメンも、三次元になると無視できない。

 圧倒的な存在感を放つ至高の生物になるのだということが。

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