第7話 入学前の自主練(ランニングをしよう)
色々あったけど(無知な私のせいで家族を悲しませちゃったけど)、これでやっと走れる!
日が暮れて二時間ほど経った。どうだろう。そろそろいいかな。
手作りのウエアに着替えて、そうっと家を抜け出す。
もちろん玄関は使わない。使用人用の裏口から出た。
さすがにまだ人通りがあるけれど、今日は月が雲に隠れているせいで暗い。近づかなければ、互いの顔もわからないほどだ。
そっか。月の明るい夜を避けて外出すればいいのか。今日はたまたまついていたな。
屋敷が建ち並ぶ辺りを早足で通り過ぎると、道幅が徐々に狭くなっていく。
馬車が通らない細い路地を抜けて川べりに出ると、もう体が勝手に走り出していた。
うん? うーん?
イマイチなのは、ランニングシューズではなくブーツを履いているせいかな。
それでも慣れれば、こんなものかという気もしてくる。
だんだん呼吸が速くなってきた。きっと心拍数も上がっているはず。
そうそう。これこれ。
思いきって髪を切って正解だったな。
遠くの方から不躾な視線を感じるけど、誰も令嬢だとは思わないはず。
まあ夜に限らず、街中を走る人なんて、食い逃げとかひったくりとかの犯罪者だけだろうけど。
気持ちよく走っていると、橋の下の川べりで、密会しているらしい怪しい人影を見つけた。
ふっふーん? 道ならぬ恋とか?
いや、ちょっと違うか。
二人は手を取り合ったり抱き合ったりはせず、紙幣らしきものと何かを交換していた。
逢い引きの現場かと思いきや、ヤバい
えー。王都なのに、治安悪いんじゃない?
あーでも。あのブツを受け取っていた方のフード。
ああいうフード付きのコートだかマントだかがあると便利そう。
でも、「買って」とは言えないしなー。
走っていると、他にも夢遊病者のようにフラフラ歩いている人とか、酒瓶を持ったまま道端にうずくまっている人とか、危なっかしい連中が結構いた。
女性の格好だと危なかったかも。
特に目的も定めず走っていたのに、知らず知らずのうちに、ジーナちゃんが連れて行ってくれた森へ続く道を走っていることに気がついた。
このまま森へ行っちゃう? 街中を走るよりも森の中を走る方がいいかも。
こんな時間に人がいるとは思えないし。
よっし! 目的地を森に設定。
夜の森は、やっぱり怖かった。
何となく、何かが潜んでいるようで、つい、キョロキョロと必要以上に見回してしまう。
気づけば、へっぴり腰で歩いているし。
どうも走る気になれない。
どうしよう。こんなところで休憩する気分でもないし。
……帰る? いやいやいやいや。
ブーツのせいで足がちょっと痛いけど、走った距離はしれている。五キロかそこらじゃないかな。
運動部の練習量じゃない。全然足りない。
毎日十キロは走っておきたいところだ。
ま。このまま帰るのもアレだし。この前できなかった魔法の練習をしておくとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます