〜肝胆相照らす〜
♢
「この先がコンビニで、もう少し先にはスーパーもあるよ。ここを左に曲がってしばらく行くと遊ぶ場所があるんだ。カラオケとかゲームセンターとか服なんかのお店も充実してるよ。逆に右に曲がると住宅街で途中の公園は子供達の遊び場として人気なんだ。私も小学生の頃よく遊んだの!」
「そうなんだ。この辺って結構発展してるよね」
「うん!都会!って程では無いけど過ごしやすい場所だよ。色んなお店もあるし、住宅街をぬけてもう少し行くと海がある。漁港もあるから魚も美味しいんだよね。今度おすすめの海鮮丼のお店に一緒に行こう!」
「いいね。楽しみだな」
今日は光君に昨日言った街の案内をしている。
光君は私の案内する場所を興味深そうに見て話を聞いてくれる。ワクワクとした視線が彼も楽しんでくれていると教えてくれる。徐々に表情が出てきていて、良い兆候だなとその様子を見守っていた。そんな時、
「あっ!橙果!」
「え?」
「やっぱり、橙果だ!」
「蒼!皆!」
大学の同期で仲良くしている友人に声を掛けられた。
「どうしたの?こんな所で」
「私の忘れ物を取りに行ったついでに、コンビニに寄ったの」
「そうだったんだ」
「ところで、・・・」
「ん?あぁっ!ごめん紹介するね!」
「こちら、光君!蒼は会ったことあるよね?この前、講義行く前にさ見つけたあの子」
「光と言います。よろしくお願いします」
「あぁっ!この前倒れてた?髪、スッキリしてたから気づかなかった!大丈夫だった?」
「光君、覚えているか分からないけど、君が倒れた時に一緒にいた大学の友達の蒼」
「
「あっ、よろしくお願いします。その節はありがとうございました」
「いいよ、いいよ!私特に何もしていないし。元気になったならよかった!」
快活な蒼に光君はやや押され気味だった。光君は蒼とは正反対のタイプだから、蒼の明るさに圧倒されたのだろう。
「そしてこっちの子が、
「
「よろしくお願いします」
愛と光君はお互いに様子を伺っていてこちらも距離を縮めるのには時間がかかりそうだ。
「で、この長身優男が
「人を四字熟語で紹介しないで。初めまして、長身優男の
「よろしくお願いします」
「武流は私の幼馴染なんだ。家が近所だから多分この中だったら一番会うことになるかもね」
「そうだね。光君、何かあったらいつでも頼ってね」
「ありがとうございます」
武流の柔らかな雰囲気に緊張が解けたようで光君の表情が明るくなった。
「そして最後に、この子が
「
「よ、よろしくお願いします」
「ちょっと藍、態度悪いよっ」
「別にいつも通りだよ・・・」
「なに、いっ_____」
「まあまあまあ。光君、ごめんね。藍は悪いやつじゃないから許してね」
「いえ、僕は全然・・・」
藍のぶっきらぼうな態度に光君が萎縮してしまった。
せっかく光君の緊張がなくなってきたとこだったのに・・・・
「もうっ、藍のやつ一体何な訳?いつもはあんなんじゃないのに・・・」
「まあ、藍も気が気じゃないんでしょ」
「え?どうゆうこと?」
「さぁねぇ?」
「なにその反応!」
藍はいつも明るく、グループの中心にいるようなタイプだ。周りのことも見れるやつだから、光君ともすぐに仲良くなれると思っていた。だが、彼の今の様子から思っていたよりずっと時間がかかりそうで心配だ。
「まぁ、大丈夫でしょ。藍、嫌いであの態度撮ってるわけじゃないだろうし、すぐ仲良くなるよ」
「そうかなぁ・・・」
蒼はそう笑ったが、それでも私の中には少し心配が残った。
でも、まぁちょっとずつ仲良くなっていけるように手助けしていけばいいか・・・
「光君、この四人が大学の私の友達。武流と蒼はこの辺に住んでいるし、藍と愛もよく遊ぶから。これから関わりが増えると思う。皆で今度どこかに遊びに行こう!皆もいいよね?」
「もちろん!」
「いいねぇ」
「はい」
「まぁ、」
「よろしくお願いします」
それぞれの了承を得てとりあえずお互いの自己紹介は終わった。
「ところでさ?橙果」
「ん?何?」
「光君はどこの子なの?どうして橙果と一緒に?」
「あぁ、それはね・・・」
私はここまでの経緯を話した。先日、蒼と共に倒れている光君を見つけたこと、光君が入院するために私の家が身元受取人になったこと、光君が自分の名前以外わからない記憶喪失であること、身元が分からない為行く当てがないことも話した。
「それで今、うちに住んでるってわけ」
「はぁ!!?一緒に住んでる?!」
「そんなことになってたんだ・・・」
「でも、おじさんとおばさんが許可したんだろ?なら、まぁ、大丈夫だろ」
「でも、そこまでするか?普通・・・」
「橙果ちゃんは優しいから見過ごせなかったんでしょう?」
「橙果お人好しなところあるもんねぇ」
「はは、それで今は光君にこの辺の案内をしてたの。この地域に慣れて貰ってから少しずつ記憶を取り戻すのと、身元を調べるのをやっていこうかなって」
「なるほどね。俺も何かあれば手伝うから言ってね」
「私も!私もっ!」
「私も、何かあれば・・・」
「・・・まぁ、俺も」
「皆さんありがとうございます」
頼りになる人達が増えることが心強かった。光君に友達が増えるのも彼にとっては良いことだろう。光君は時々、一人で考え込んで悲しそうに顔を伏せている時があった。自分のことや、これからのことが心配なのかもしれない。・・・当然のことか。自分の名前以外分からず、気が付けば知らない場所に一人。自分の身元を一番知りたいのは光君自身だろう。自分が何者なのか考えるなという方が難しい。だが、それだけではきっとしんどくなってしまうだろうから、どうすれば光君が思い詰めないで済むかとずっと考えていた。
だから、笑顔が増えていく光君を見るのが友人としてとても嬉しいのだ。なんの手掛かりもないこの状況が、たくさんの人と関わることで何か思い出すきっかけになるかもしれない。
これが私にできる最大限の手伝いだ。一日でも早く、光君の記憶が戻りますようにと願って私には何ができるかと今日も考えるのだ。
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