〜君との出会い〜

   ♢

  

 念の為精密検査をしましょう。と言われ、一日検査をした後、病室を精神科病棟に移動したりと心身共に疲れきってしまい、昨夜はまたも気絶するように眠りについた。

 幾分か楽になったとはいえまだ重く感じる体を起こし、先生を待つ。検査の結果と今後について話すことになっているから。

 しばらくすると扉が開く音がしてそちらに視線と向ければ、看護師さんが立っていた。

「光さん。体調はいかがですか?」

「はい。おかげさまでだいぶ良いです」

「それなら良かったです。これから、診察室で先生から説明がありますので、・・・」

「はい。分かりました」


 ベットから起き上がり、看護師さんの後を着いていく。しばらくすると看護師さんが扉の前で立ち止まり、こちらです。どうぞ。と扉を開けて僕に入るようにと促した。

 それに従って入れば中には三十代くらいの男の先生が待っていた。

「あぁ、光さん。お待ちしておりました。どうぞそちらにお掛けください」

「はい、・・」

 目の前の丸椅子に先生と対面するように座る。なんとなく緊張感が漂っている気がする。

「光さんを担当することになりました。旗原と申します。お身体の方はいかがですか?」

「はい。だいぶ良い感じです。」

「そうですか」

 旗原先生は細身で筋肉質という訳では無さそうだが、キリッとした目元とそれを縁取るようなスクエア型の眼鏡が謎の威圧感を与える。目の下にある隈がより鋭さを強調するようだ。あまり話すのが得意そうでない雰囲気も理由の一つかもしれない。気まずい空気に少し身を縮めた。


「検査の結果ですが特にこれといった問題はありませんでした」

「そうですか・・・。良かったです・・・」

 僕の相槌は頼りなく消えていってしまう。

「・・あの、僕は今後どうすれば・・・・」

「それについては少し待ってください。そろそろいらっしゃると思うので・・・」

「?・・・いらっしゃるって、一体誰が・・・・」

 僕が先生に問うのと同時に後ろのドアが開く音がして振り返るとそこには、・・・

「すみません!遅れました!」

「えっ?なんで・・・」

 とうかさんがいた。

「僕がお呼びしたんです」

「何故?」

「彼女に光さんと会った時のことを詳しく聞きたかったのでお呼びしたんです。とりあえず、黄玉おうぎょくさんお座りください」

「あっはい」

 彼女もこの状況に戸惑いがあるようで、落ち着かない様子で僕の隣に用意されていた椅子に腰掛けた。


「では、まず黄玉さん。光さんを見つけた時のことを教えていただけませんか」

「はい。えっと、と言っても特に話せることもないんですが・・・。何を話せば」

「そうですね・・・。光さんをどこで見つけましたか?」

「えっと、大学に行こうと駅まで歩いていたときに道の角で倒れているのを友人と発見しました」

「なるほど。光さんは何故そこにいたのですか?」

「昨日も話しましたが、帰る場所がなくて彷徨っていたんですけど所持金も尽きてしばらく飲まず食わずだったんです。そうしたら段々体調が悪くなってきて、それまでの疲れてたのもあって力尽きていた所を彼女に助けられたんです。」

「なるほど。前の担当医から二週間ほど途方に暮れていたとお聞きしていますが、どのような経路でこの街に来たか覚えていますか?」

「この辺の土地のこと自体よく分かっていないので、詳しくはいえないのですが、町を二つほど渡って来たのは覚えています。その中の一つは割と発展した街でした」

「光さん、電車とか乗りましたか?」

「いえ、食べ物を買うのにしか使っていなかったので・・・」

「とすると、隣町あたりかな・・・」

 旗原先生は僕たちから聞いたことをパソコンに書き留めていく。

「・・・昨日も聞かれたと思いますが、二週間前以前の事は思い出せませんか?」

「はい・・・。気づいたら、知らない場所にいたので」

「どんな些細なことでも構いません」

「・・・ごめんなさい」

「そうですか・・・。では、金銭以外の持ち物は持っていませんでしたか?」

「はい」

「分かりました。先ほども言いましたが、検査で脱水症状と疲労による発熱以外に特に問題は見当たりませんでした。そしてもうすでに察していらっしゃるかもしれませんが・・・・。光さん、私が出せる診断結果としては、“解離性健忘症かいりせいけんぼうしょう“。いわゆる、


 記憶喪失が考えられます_________________」

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