第23話 えっちなコスプレは目の保養になる。
光莉がクラスの馬鹿どもに質問攻めにされてから約一時間後。
我関せずで作業を行っていたはずの俺は、愛しの恋人から物理的に尻に敷かれていた。
「何か言うことは……ッ!?」
「誠に申し訳ありませんでした」
床で土下座する俺の上に乗りながら、怒気のはらんだ声を轟かせてくる光莉。ゆかしか見えないのであくまでも予想でしかないが、きっと彼女の美しい顔にはそれはもう濃いめの青筋が100本ほど刻まれていることだろう。
俺は土下座の姿勢を崩さぬまま、光莉への弁明を開始する。
「でもさ、ほら、ウチのクラスの連中と仲良くなれたみたいだし、結果オーライなところない?」
「次は顔を踏めばいいの?」
「全力でごめんなさい」
彼氏に見捨てられたことが相当ご立腹らしい。俺一人の力じゃあこの状況を打破するのは難しいだろう。
すぐ傍で黙々と作業を続ける千里に、俺は助けを求めてみることにする。
「千里、頼む。助けてくれ」
「後で怒られても知らないわよ、って言ったと思うのだけれど」
「うぐ……こ、この前、翔琉と二人きりになる機会作ってやったろ?」
「チッ。しょうがないわね……」
舌打ちされたことは気になるが、どうやら助ける気になってくれたらしい。
「光莉。もうその辺で勘弁してあげたら? 水樹も反省はしてるみたいだし」
「……だって、助けてくれなかったんだもん」
「後で駅前の喫茶店の一番高いパフェ買ってくれるらしいわよ?」
「じゃあしょうがないなあ!」
甘いもの好きの光莉には効果覿面だったようで、さっきとは打って変わって明るく可愛い声を上げながら、光莉は俺の上から飛び降りた。どうでもいいが、俺の財布が勝手に生贄に捧げられているのは何故?
言いたいことはいろいろあるが、無事に助けてくれたのでお礼ぐらいは言っておくとするか。
「ありがとな、千里」
「あたしは借りを返しただけだから」
「千里は何だかんだ言って水樹に優しいよね。もしかしてツンデレさん?」
「誰がツンデレよ誰が。今どき流行んないっつーの、そんなの」
誰がどう見てもツンデレだろうに。でもここでそれを指摘したら怒られるのは目に見えているので、俺はお口にチャックをすることにした。
床から立ち上がり、汚れを払いながら椅子に座る。光莉はいつの間にか千里の隣に椅子を持ってきて座っていた。相変わらず行動の速い奴である。
光莉は千里の手元を見ながら、
「ねえ、それなに作ってるの?」
「んー? お化け役の人が上から被る白い布的なヤツ。血化粧と顔のパーツとかくっつけるだけだから、パパっと終わらせたくて」
「へー」
「これでよし、っと……そうだ。光莉。出来栄え確認したいから、ちょっとこれ着てみなさいよ」
「え、いいの?」
「誰かが着た状態のを確認しないといけないもの」
「やったー。じゃ、お言葉に甘えて……」
千里から受け取った衣装を、光莉はその場でいそいそと被り始める。
「ぷはっ……どうかな?」
白い布の下からひょこっと顔を出しながら、「がおー」と人を脅かすポーズをとる光莉。
うん、なんだろう。
「——俺の恋人が可愛すぎて生きるのがしんどい」
「思った通りの可愛さね」
「ありがとうございます千里様。このご恩はいつか必ず……」
「ふん。どうすれば光莉が可愛くなるかは、世界で一番あたしが理解しているんだから。今後も頼りなさいよね」
「俺の友人が有能すぎてヤバイ」
「ふ、二人とも。恥ずかしいからやめて……」
そう言って、布で顔を隠す光莉。照れ隠しのための行動だが、隙間から顔が赤くなっているのが確認できてしまうので、あまり意味をなしていない。でも可愛いので問題ありません。
「も、もう、鑑賞会は終わり!」
俺と千里からの褒めちぎり攻撃に耐えられなかったのか、光莉はすぐに衣装を脱いでしまう。
「あー……」
「見なさい光莉。あんたのサービス精神が足りていないせいで、あんたの彼氏がこの世の終わりみたいな顔してるわよ」
「えぇ……私にどうしろと……?」
「あたしにいい考えがあるわ。ちょっとこっち来なさい」
「嫌な予感しかしないんだけど……」
千里により、光莉が教室の外へと連れていかれる。
――そして数分後、
「た、ただいま……」
ミニスカナースのコスプレをした光莉が、俺の目の前に舞い戻ってきた。
「ね、ねえ、千里。やっぱりスカート短すぎるよ……胸も谷間まで見えちゃってるし……これ、本当に文化祭で使う衣装なの……?」
水色のミニスカートの裾を必死に抑えながら、千里に疑いの目を向ける光莉。彼女の言う通り、全体的に露出の多いナース服。顔に血化粧がついているところがまたお化け屋敷っぽくて最高である。あと胸がヤバい。前かがみからの両手で胸を挟む形になっているせいでおっぱいが押し上げられ、おっぱいの北半球がガッツリ見えてしまっている。
控えめに言って最高である。
「千里、本当にありがとう……ッ!」
「見なさい光莉。あんたの格好がエロ過ぎるせいで、あんたの彼氏がめちゃくちゃキモい顔で号泣してるわよ」
「私、今日の夜ぐらいに水樹と今後について話した方がいいのかもしれない……」
「それとさっきの質問についてだけど、その衣装、別にお化け屋敷で使う奴とかじゃないから。素材を切り取るために用意してた、ハロウィン用のコスプレだから」
「やっぱりそうだよね!? 千里が『水樹が喜ぶから』って言うから着たけど、流石におかしいんじゃないかって薄々思ってたんだよね!」
「喜ぶって意味では嘘じゃないからセーフでしょ」
「学校でこんな格好させてる時点でアウトなんだけど!」
ぽかかかか、と真っ赤な顔で千里の肩をたたく光莉。心なしか目尻に涙すら浮かんでいるように見える。
文化祭って今まで全然楽しい思い出とかなかったが、今年は準備期間の時点でめちゃくちゃ楽しい。クラスの連中と一丸となって協力したり、恋人のエロいコスプレを見ることができたり……いいこと尽くめである。
「あとはウチのお化け屋敷が文化祭の出し物ランキングで一位を取れば完璧だよなあ」
「そういえばそんなのあったわね。確か、一位のクラスには全員分の遊園地の招待券が配られるんだっけ?」
「え、なにそれ聞いてない。流石に豪華すぎじゃねえか?」
「聞いた話によると、ウチの学校の理事長が遊園地の管理会社のオーナーと親友で、文化祭のたびにチケットを送ってもらってるとかなんとか」
「完全無欠のコネじゃねえか」
しかし、遊園地の招待券か……光莉とは何度も行ったことはあるが、デートとしてはまだ一度も訪れたことはないな……地味に高いんだよな、遊園地って。
「なぁ、光莉。お前、遊園地に行きたいか?」
「それは遊びとして? それともデートとして?」
「……で、デートとしてに決まってんだろ」
わざわざ言わせないでほしい。いや、どうせわざとなんだろうが。
俺にデートという言葉を言わせて満足したのか、光莉は無邪気な笑みを浮かべる。
「ふふっ。デートとしてなら行きたいかな。なに、私のために頑張ってくれるの?」
「俺一人の力でどうこうできるもんでもないが、まあやれるだけのことはやろうかなと……」
「そっか。——期待してるね」
そう言って、光莉は俺の手をそっと握る。光莉の大胆な行動にクラスの馬鹿どもが湧いていたが、あえて見なかったことにした。
それにしても、こんな公衆の面前で光莉がここまでのアプローチをしてくるとは。それぐらい、俺からの提案が嬉しかったということか。
……これは、本気で頑張らなくちゃいけないな。
クラスの連中が「このこのー」と俺の顔やら肩に紙くずをぶつけてくる中、俺は人生で初めて文化祭というものに本気で取り組むことを決めたのだった。
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