第4話 親友はカプ厨。
「水樹! さっき光莉ちゃんと手を繋いでいたが……ちゃんと説明はしてくれるんだろうな!?」
光莉と恋人になり、初めて二人で登校してから数分後。
俺は親友の
「いきなり詰めてくんな。お前でけぇから怖いんだよ」
「ぬ。すまない。しかし、どうしても気になってな……」
「気になるのは勝手だが、マジで見たまんまでしかねぇぞ」
「はぐらかすのはナシだぞ水樹。いつ付き合うんだよこいつらと見守ること約四年。オマエが都合の悪い時は言い訳を並べて逃げる男だということを、オレは誰よりも分かっているのだからな?」
「お前の中の俺の評価酷すぎねえ?」
中学の時からの付き合いである親友から『都合の悪い時は逃げる男』として認識されてるの流石にヤバすぎるだろ。ちげーよ、面倒くさいから戦略的撤退するように心がけてただけだよ。失礼な奴だな。
鞄の中から一限目で使う数学の教科書を取り出しつつ、クマのような無骨な顔で迫ってくる翔琉に溜息を吐く。
「はぁ……付き合うことにしたんだよ、光莉と」
「それは恋人として、という意味で受け取っていいんだな?」
「それ以外に何があるんだよ」
「本当に本当なんだな?」
「本当だっつの。何でそんなに疑うんだよ」
「…………ありがとう……ッッッ!」
柔道四段の大男がいきなり号泣し始めた。
「な、なんだよ。なに泣いてんだよ。気持ちわりぃな……」
「泣くに決まっているだろう! オマエたちは十年以上一緒にいるというのに、いつまでも付き合わなかったのだぞ!? こんなにめでたいことはない……っ!」
「だとしてもお前からお礼言われるのは意味不明だろ」
「意味不明などではない! 何故ならオレは――生粋のカプ厨なのだからな!」
「頭大丈夫か?」
数年来の付き合いである親友の衝撃の事実を知ってしまった。なんだよカプ厨って。少なくともリアルの知り合いに向ける感情ではないだろ。
翔琉は男泣きしながら、
「本当にめでたい……オレが総理大臣になったら、今日という日を国民の祝日として特別にしてあげるからな……っ!」
「流石にキモいぞお前」
「それほどまでにめでたいということだ! よく頑張ったな、水樹!」
頑張ったな? ああ、こいつは俺から告白したと思ってるのか。変な勘違いされても困るし、そこはちゃんと修正しておかんとな。
「早とちりしてるとこ悪いが、俺からは告白してねぇぞ」
「どういうことだ?」
太い眉を顰める翔琉に、俺は昨日の出来事を事細かく話し始める。
放課後に二人でファミレスに行ったこと。
そこで、光莉から「じゃあ、私と付き合ってみる?」と言われたこと。
どうやら俺も光莉のことが好きっぽかったので、付き合うことにしたこと。
そのすべてを、包み隠さず翔琉に伝えた。
「……なるほどな」
翔琉は丸太のような腕を組み、数秒ほど唸ると、
「オマエ最低だな」
「今の流れで何故そうなる!?」
いきなり俺を罵倒してきた。
「だって、そうだろう。光莉ちゃんから告白させるなんて、男の風上にも置けんぞ」
「この令和という時代にまさか男らしさを問われるとは思わんかったわ」
「まあ、今のは三割冗談として、だ」
「割と本気じゃねえか」
「オマエから告白はしないのか?」
「は? 何で?」
素で疑問を返したら、翔琉は冷たい視線を向けてきた。
例えるなら、路傍に転がる虫の死骸を見るかのような目で。
「光莉ちゃんはオマエに想いを伝えたのだろう? ならば次はオマエの番ではないか」
「いや、一応好きってことは伝えてるぞ。俺、思ってたよりもお前のこと好きかもしれん、ってな」
「そんなものは告白ではない!」
「お前の中の恋愛観、昭和で止まってんのか?」
俺と同じ平成生まれだろうに。
「光莉ちゃんが勇気を出して告白したのだから、オマエも告白をするべきだとは思わんか?」
「えー……改めて言うのなんか恥ずいじゃん……」
「最初に舵を切った光莉ちゃんの方が恥ずかしかったに決まっているだろう!」
凄まじい力で肩を掴まれた。柔道部の次期エースと言われているだけあってか、そのパワーはまさにゴリラ。俺の肩、ぶっ壊れてたりしないよな?
「想いは伝えられる時に伝えておくべきだ。気持ちというのはすぐにすれ違ってしまうものなのだからな」
「お前何なの? 恋愛マスターかなんかなの?」
「フッ……これでも歴戦の恋愛漫画読みだからな。ちなみに、最近のおすすめは少女漫画だ。最高にキュンとできるぞ」
そう言って、得意げな顔で鼻下を擦る翔琉。あまりにもギャップの塊過ぎる。なんでこいつがモテないのかが不思議でしょうがない。
しかし、光莉にちゃんと告白する、か……言われてみると、俺は光莉に対していろいろとはぐらかしている気がするな。好きってことを伝えはしたが、告白らしい告白だと言われれば、確かにノーだろうし。
「……まぁ、そうだな。お前がそこまで言うなら、ちょっと頑張ってみるよ」
「オレの最推しカプがついに誕生したのだ。協力できることなら、何でも協力してやるぞ!」
「最高の親友過ぎる……」
「がっはっは! そうだろうそうだろう?」
余程嬉しかったのか、翔琉は俺の背中をバンバンバン! と激しく叩く。
「おっと、そろそろ一時限目が始まってしまうな。では、水樹。健闘を祈るぞ」
「あいあい。物理的にも背中押されたんだ。流石に逃げねえよ」
自分の席へと戻っていく翔琉を、俺は軽く手を振って見送る。
さて、光莉に告白することが決まったわけだが、どうしたものか。
クラスが同じなら十分休みとかに連れ出せばいいが、残念ながら俺と光莉は所属するクラスが違う。あと告白するならするであまり人気がないところでやりたいし、移動時間を考慮しても昼休みか放課後がベストだろう。
……よし、決めた。
スマホを鞄から取り出し、ラインを起動して光莉とのトーク画面を開く。
そしてメッセージを素早く打ち込み……数秒の逡巡の後、光莉へと送信した。
『大事な話がある。放課後、理科準備室まで来てくれ』
返信を待つことなく、スマホを鞄の中へと放り込む。
数学教師が教室に入ってくるのを横目で見つつ、俺はノートの隅に告白セリフの候補を書き連ね始めるのだった。
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