1話 蓮華寺その7
「デルタとは三角州のこと」
加茂大橋まで辿り着くと、鴨川デルタとその奥の糺の森が見えてくる。
鴨川デルタ周辺にはやはり多くの人が集っていた。
旗を振って踊る集団に、三味線を弾く若者達。こんな季節にもかかわらず川の飛石をとび、川遊びをする人々と、それを眺めつつ歩いたりツーリングをしたりする人々。
最早ちょっとした観光名所である。
訪れる度、そのような光景を目の当たりにするため慣れたものだが、当初はなんだか鬱屈した大学生の醸成する淀んだ空気感で、居心地のいい程湿った場所なのでは無いかと思っていた。
その為胸躍らせて訪れた若かりし頃に、あまりにも普通の遊び場であるのを見て愕然としたものである。
しかし、今は違う。
楽しそうな学生達よ、存分に楽しめばいい。それが今の君たちの仕事である。
かく言う私なんて、カピバラのようなげっ歯類の住まう川の前にあるパッとしない学生寮の一室で何をするでもなく、化け物のような鳴き声を聞きながら日がな1日横になっていただけなのであるから、今は薄給の窓際リーマンである。
こんな大人にはなってくれるな。
楽しい一生を送ってくれ。
と、私は彼らに密かに身勝手なエールを送って遊んでいるのである。
そうこう思いながら叡山電車に乗ろうと駅に入ると、どうにもたっぷりと人が居て少々困惑してしまっあ。
叡山電車というものは普段からこうも混み合うものなのか。
それとも人波3倍の影響であろうか。
一瞬歩いて行こうかとも考えたのだが、それでは17時に間に合いそうもないので仕方なく人混みに紛れる小動物宜しく、ひそひそと身を屈めて、比較的空いた電車に乗り込むのである。
車内にはいると、足元には沢山の紅葉が落ちていた。
これは叡山電車側ののイキな演出であるかと思ったが、それならわざわざカリカリになった葉を敷くのではなく、模様を書くので十分だろうなと独りごちた。
大方前に乗った乗客達のお連れ様だろう。
さて、目的の一乗寺まで揺られることとしよう。
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