1話 蓮華寺その1
「場当たりの怪物」
11月中頃。
ふと、先週あたりから紅葉が見たい欲望がメラメラと湧き上がってきた。
ただ、そうは言っても紅葉の名所などロマンチストの端くれにも及ばない自身にとっては縁遠いこと。
学生時代に嵐山で紅葉狩りをした経験から
「紅葉と言えば京都」という、半ば擦られすぎて印字の薄くなっている文言のみが頭に定着しきっており、それ以上の解を得られずに居た。
それ故、よし京都に行くんだと勇み足に謳っていたのだが、実際は当てもなくふらふらと浮浪するつもりでいたのである。
このまま、当てもなく歩くのも良いか。
いや、むしろその様にして当てのない旅をし、出会い一つ一つを大切に大切に頬擦りすることこそが放浪記では、とも思えたのだが、当てもない三十路男が歩くだけなぞ、そんなものが面白いはずがない、いや、そも不審者に見間違えられかねない。
通報なんぞされた日には日の本を歩けないでは無いか。
よっえ、とりあえずは目標を決めて、しまわねばと思っていたが、思い出される苦々しい学生時代。
嵐山に行って人の多さに辟易したのを思い出す。
それに噂では今の京都はコロナ禍前の3倍の人の多さだというものだから狂気の沙汰では無い。
さて、好いところは無いだろか、と仕事そっちのけでふわふわと思索していたそんな折に友人より蓮華寺を勧められたのである。
特に行きたい所もなし、ちらっと検索をすれば何とも素敵なお庭から覗く真っ赤な紅葉に惚れ込んで、それじゃあと場当たり的に目的地を決めた。
おおよその場所と入場可能時間のみを調べて、それだけを頼りに11月最後の土曜日に京都へと向かうこととしたのであった。
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