第7話 告白と懺悔と
「おかあさーん包帯どこだっけ」
橘さんが先にお風呂から上がってそう叫ぶ
「テレビの下に薬箱あるでしょ。でも包帯なんて何に使うの?」
それには答えず脱衣室に来て考えこんだ。
「あの、どうしたの」
「いやー包帯の巻き方わかんなくって」
彼女は持ってきたのはいいけど、その使い方までは知らないようだった。
「私に貸して」
受け取った包帯を自分の左手首に巻きつける。
1周目は斜めに巻いて、2周目に最初に巻いた包帯の端を内側に折り込む。
3周目巻以降は普通に巻く。
私が手際よく包帯を巻いている様子を、彼女が呆れた顔で見ていた。
「何でそんなに上手いのよ。ってこれは聞かないほうがいいか」
「そうですね」 まあ、何度もやってるから
「そんなにしょっちゅうやっているの?」
「・・・・・・」
それには答えない お風呂に入るたび、自分の体を見るたびに思い出してしまう。
忘れることができれば それでよかった。
「・・・たまによ」
だから より強くこすらないと 汚れは落ちない
「でもそれって精神的な物よね。あなたの体傷ひとつ無い真っ白できれいだったよ。汚れていないよ」
彼女にはそう見えるんだ
私は最後に左腕に包帯を巻き、最後にサージカルテープで止めた。
腕を持ち上げて見つめる。この傷は、数ヶ月もすれば消えてなくなるけど
私は消えずに残った
*
「なにか嫌いなものある?食べられない物とか」
夕食を手伝っていたら莉佳子さんか聞いてきたので、正直にエビとカニと貝類が苦手と伝えた。
「あれー甲殻類アレルギーあったっけ」
「いえ、単に好き嫌いです」食べると気分が悪くなることを伝えた。
「知らなかった。むかし気にしないで出してたよね。大丈夫だったのその時は」
これは奴が誘いで食べた海鮮鍋のせいだ。
先輩のおごりだ、美味しそうに食べないと。
結局、好きでもないのに食べて。今じゃ吐くほど嫌いだ。
・・・そんなことよりも気になることが
「悠さんは手伝わないの?」
私と莉佳子さんが夕食の準備に忙しい中、ひとりソファーの上でゴロゴロしてる。
働かざるもの食うべからずとまでは言わないけど、こっちが忙しくしている中、ゴロゴロされるのはあまりいい気分ではなかった。私が言う筋合いではないと思うけど。
そう言われ、さっと立ち上がろうとした悠さんを見た莉佳子さんが悲鳴を上げた。
「待って!お願いだからキッチンに近づかないで!」
「あのう、ひょっとして下手なんですか。料理」
悠さんは、残念だけどねと言って笑った。
悠くんは小さい頃はお母さんのお手伝いしていてお料理が上手だった。
やはりこの世界の悠は別人なのだ。
少し寂しいけど、その方が別人として接しやすかった。
「いただきます」
橘さん家の夕食のメニューはポトフ
大きめの野菜がたっぷり入ってる。私は大好きだ。
「とても美味しいです」キャベツと玉ねぎが・・
「うんうん、良い返事だね。それに引き換えこっちの娘は」
「・・なに?」
無言で食べていた悠さんはその声に顔を上げてみせた。
「できればもっとお肉が入っていると完璧ね」そう言ってベーコンをうらめしげに
見ていた。自然と頬が緩む 温かい家庭
性別は違っていても、たしかにそこは私が記憶している橘悠の家庭だった。
温かい雰囲気に 苦しくなる
「・・・まーた泣いてる」
「だって」
優しくて苦しい
「何かあったんでしょ」
莉佳子さんがそう聞いてきた。
彼女にとって私は、小さい頃親しくしたというだけの他人のはずなのに
それさえも3年前の転校で途絶えてる。
甘えていいんだろうか そんな彼女に
「何でも話して」その言葉に私は口を開く
「じつは・・」
喉が渇きうまく喋ることが出来ない。
自然と呼吸が荒くなる。
爪が食い込むほどキツく拳を握る。そんな私の手を悠さんが優しく包んでくれた。
今言わないとずっと隠し続ける そんな気がして私は口を開いた。
「信じられないかもしれないことだと思います。でも本当のことなんです。私はこことは違う世界から来ました」
そう言うと彼女たちの目が大きく見開かれた
きっと信じては貰えない
神様 どうか私に勇気を
「その世界で私はあなたの子どもを死に追いやってしまった」
どうか
「私は悠くんを死なせてしまった」
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