第6話  お泊まり


「二人とも先にお風呂はいって」

ゆうは服を貸してあげるのよ」

陽菜ひなちゃんはご両親には連絡したから、今日は泊まっていきなさい」


莉佳子りかこさんはテキパキと私たちに指示を出していた。泊まるって?


今泊まるって聞きましたが、いつうちの親の電話番号を知ったのか気になります。


私が泊まるのか、どうしょうかなと悩んでたら、

「じゃあ私先にお風呂はいるから」そう言うと橘さんは1人浴室に消えた。


私は着替えを持って彼女の後を追って中に入る。

「何でついてくるの!」

彼女は直ぐ側に立つ私の姿を見てぎょっとする。

何を驚いているんだろう。

体が冷えた私は早くお風呂に浸かりたかった。

「ごめん、1人のほうが良かったよね」と言いつつも、私は遠慮なく中へと入り制服を脱く。

その間、彼女は一度もこちらを向くこと無く自分の体を洗っていた。


何だか耳が赤い様です

あたしは脱いだブラウスを持って中に入った。シミにならないといいけど


私の様子を見て思い出したのか、橘さんが昼間のことを謝ってくれた。


彼女が謝る必要は無い。

おかしいのは私の方だ。


「こっちこそ驚かせたみたいでごめん」

「あたし達お風呂場で何やってんだろね」


私達は少し笑った。

彼女もそう感じたのか緊張が取れたようだ。


私は彼女の後ろに回り込むと「貸して」と彼女が持っていたタオルを奪い取る。


「えっ、ちょっと」

私は彼女の後ろに周り背中を洗う。

わたしと違い健康的な白さだ。

また緊張したのか耳を赤くして俯いている。


誰かの背中を流すのは何年ぶりだろう

昔小学校入学前まではよく彼と一緒にお風呂に入ってた。

2人して泥だらけで遊んではふろ場に放り込まれた。

浴室に放り込まれても遊んでしまい、彼の母に怒られた


たのしかったなぁ


滲んでゆく背中を見ながら私は思った。


鏡に映る私は酷く心配げな様子だった

すぐ泣いて 私はダメだな


さっとお湯をかけて「はい終了」少しおちゃらけた感じでそう言うと、彼女を浴槽へと追いやり、自分の体を洗う。


この体は綺麗だ

私とは違う

でも一度染み付いた習慣はなかなか抜けなかった。

「ちょっと、いつまで擦ってるの!」

彼女に腕を捕まれハッとなる。

私の肌は処々擦れて血が滲んでた。


「こっち来て!」

赤くなった場所をシャワーで流してくれた。


「ほんとになにやってんのよ」

「ごめんなさい」

これだけやっても汚れが取れない


項垂れた私に彼女は優しく声をかけた。

「なに泣いているの」


泣いているのは誰だろう


音もなく流れる 涙

泣いているのは私か

それとも

この体の持ち主か


この世界で覚醒して

そろそろ一日が過ぎようとしてる


未だに私の心は あの時のまま

いなくなった彼の事を思うと、息が出来なくなる

この世界に来た時は、すぐにでも会いたかった。

でも、いないと知って何処かほっとしていた。


何と言って謝ればいい

許されないことをした私は

未だに彼に会う勇気もない弱虫だ


でも会いたかった

それだけで 昨日まで生きて来たというのに


なんで

今は 彼に会うのが怖い


「なんでもない!」少し乱暴にばしゃばしゃと顔を洗う。


その時顔を上げていたら見る事が出来た


鏡越しで不安げにこちらを見ている彼女は


私がよく知っている彼に

酷く似ていたということに。


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