第5話 彼の母
いつの間にか私は寝ていた。
そっと隣を伺うと、田辺先生が日誌を書いているところだった。
視線をもどし天井を見つめる。
彼はここはいない。
それは確認できた。
でも私には彼がいなくてもやらなければいけない事がある
こんどこそ選択を間違えない
これは未来から来た私の使命だ
今は多分私の中で眠っているだろうこの世界の私。
彼女の心は体の成長に追いつけなかった。
子どものままの感性で大人になっていく私。
私はこの子を守る
そのために出来る事は
何があるんだろう
時々私ではない感情が湧き上がることがある。多分それが元の彼女なのではと思う
いつまでこの体に要られるんだろう
でもいつか必ずその時は来る。
強くなろう 1人でも生きられるように
でもそうして消える前に
もう一度会いたかった
彼の声が聞きたい!
狂わしいほどに
ひなって私の名前を呼んでくれたら
いつ消えたっていいのに
*
「おお、ようやくお目覚めね」
次に目を覚ました時、室内は薄っすらとラベンダー色に染まっていた。
また寝ていた
「すみません、今帰ります」壁にかかった時計は夜の7時を過ぎていた。
「もう遅いから誰かに連絡取って迎えに来てくれるようにね」
仕事も終わったのか椅子に座って片付けをしている。
「あのいません」私は困ってそう告げる。
両親は仕事で遅くなることが多い。
今日もお店があるので閉店後に片付けしてからの帰宅だ。
「ん、親御さん仕事遅いの?」
「はい。多分帰宅は12時過ぎると思います」
先生はそれを聞いて困ったなと呟いたけど、少しも困ったようには見えなかった。
「じゃあ、先生のところに来る?」私は深呼吸すると
「大丈夫です。友達の親に来てもらえるので」
彼女の目を見ないでそう告げた。
「そう。残念ね」 ええ本当にそうです。
私はスカートのシワを見てそっと溜息を零し、諦めてシャツのシミを見ていた。
もうどちらも明日は着られない。
スカートのポケットからスマホを出して電話をかける。
はたして番号はお覚えているだろうか
2回目のコールで相手が出た。
「はい、橘ですがどちら様でしょうか」
私は非通知のままだったことを後悔した。
「お久しぶりです。浅野陽菜です。小さい頃によく悠さんと親しくさせてもらっていました」
そう言ったら、すぐに思い出してくれた。
「ああ、陽菜ちゃん?あの泣き虫でお転婆な」
そこはしっかり覚えているんですね。
「はいその陽菜です」
「悠ならまだ帰ってないけど何か急用でも」
しまった。悠に頼んで来てもらうつもりだったけど、肝心の本人が留守だなんて。
でもよく考えてみたら、あたしにとって彼女はほぼ初対面。
得体がしれない点もあり、やっぱりその親である莉佳子さんの方が数倍安心できた。
彼女は私が返答に詰まってのに気が付き、先回りして聞いてきた。
「なにか急用なのね」
「はい、大変申し訳無いのですが学校まで迎えに来てほしいのです」
それから私は現在に至る点をざっと説明した。
「それでもう具合は大丈夫なの」
「はい大丈夫です」わかりました。
「おばさんに任せなさい」
そうして私は保健の先生に電話を渡し、迎えに来ることを知らせた。
*
「いきなりすみませんでした」
電話から30分ほどで莉佳子さんが迎えに来てくれた。
彼女は真っ赤なロードスターでやってきた
彼女こんな車に乗っていただろうか。軽とかだった気がする。
「いいのよ、可愛い子に使われるなんていつでも大歓迎よ!」
何だか私が知っている莉佳子さんよりも積極的な気がする。
子供の性別が違えば自然と接する方も変わるのかもしれない。
*
「ちゃんとシートベルトしめてね」
「はいよろしくお願いします」
最初は滑るように走り出した。
ちょっと早いかもしれない。
何が速いとは言えませんが
*
「ハイ到着!」
「・・あり、がとうございます」そう言ってシートベルトを外し、車から降りた途端、私は駐車場に盛大に転倒した。
「ちょっと、大丈夫!?」
「・・・ちょっと・・足が震えて」
きっと私の顔も同じくらい情けないものになっているだろう。
彼女の手を借りて立ち上がる。
想像より強い力で引き上げられる。
彼女は後ろの座席からスポーツバック取り、お待たせと声をかけた。
よく見ると全身引き締まっており、なにかスポーツでもやっている感じがした。
それは私が理想とする女性像そのものに思えた。
「なに?」
「いえ、そのかっこいいなと」
小学生の時見た悠くんのお母さんはまさにお袋さんという感じがしていた。
全身ふくよかだった。
そんなお母さんに育てられ、彼はのびのびと育った。
「親御さんまで帰ってこないんでしょ、ならうちで食べていきなさい。あの子もそろそろ返ってくるわよ」
橘悠。
昼間の別れ方のせいか、私は気後れしてた。
面と向かって吐いてしまう失態もした。
多分嫌われたと思う。
「いえ大丈夫です」 断って家に帰ろうとした。すぐお隣が私の家だ。
私たちに気がついたのか、玄関が開き橘さんが出てきた。
「あら、もう帰宅していたのね」
「おかえりーなにしてるの。早く入って」彼女は私に触れないよに気をつけながら、開いたドアを支えてくれた。
「さあ陽菜も入って」
「そうそう。遠慮するなんて水臭いわよ」
そうまで言われて断るのも変だと思い、私は数年ぶりに彼の家にお邪魔することにした。
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