第3話 彼がいる場所へ
ホームルームを終えた私は、彼がいるデザイン科のある別棟へと走った。
そこにある建物に見覚えがなかった。
本当に新しく出来たんだ。
1年生のクラスは3階だったはず。
荒い呼吸のまま、私は階段をひたすら登ってゆく。
目的の3階にたどり着いた頃には、吐き気すら感じていた。
はあ、はあ
1年1組へ
足に力が入らず、時々倒れそうになる。
その都度、彼の感じた苦しみはこんなものではない。
そう言い聞かせて必死に歩みを進める。
【1年1組】
あった。 ここだ
入口のドアによりかかりながら、霞む目で中を凝視する。
私に気がついた何名かの生徒がこちらに近づいてなにか話している。
うるさい、邪魔しないで。
「あれ、浅野さん?」
私のことを知っている人がいた。
ドアに一番近い席の子が私を見て話しかけてきた。
誰だろう
酷く懐かしい誰かに似ていた。
誰だっけ?
「私のこと覚えていない?」
「・・・知らない」
「ええー!小学校からずっと一緒だったよね。ショックだわー」
ずっと一緒なのは彼しかいない。
この人はだれだろう。
妙に馴れ馴れしくて苛つく。
「あなた誰よ。あたしの事知っているの」
気持ち悪い はやくここから出たい。
「ああ、やっと聞いてくれた。あたしは橘よ」
そう言ってニッコリと笑った。
なんで彼と同じ笑い方するんだろう 右の口の端が少し持ち上げて
それに 今なんて言ったの こいつは たちばなって
「そんな目で見られると傷つくから」
彼と同じ顔でそいつは私の名前を呼んだ
「浅野さんとあたしって、いわば幼馴染よね」
やめて
「あたしも今年からこの高校に通うことになったの。また小さい頃のように仲良くしてね」
どうしたんだろ。自分の記憶のほうがおかしいのか
口元にあるほくろの位置も一緒だ
「でもやっぱり陽菜は美人になったよね。あたしが男の子だったら絶対告白しているよ。でも私ヘタレだから告白できないでいじけてるかなw」
やめて その顔で彼の悪口を言うのは
「・・・悠」
「なんだ、ちゃんと覚えていたんだね。嬉しいな」
「じゃあ 再会を祝してジュースおごちゃうよ」
そう言って 立ち上がる
ふわりとスカートが広がって、もとに戻る。
私と同じ紺色のセーラー服を着たそいつは
私が探していた彼の名前を自称する
そいつは
花が咲くようにふわりとした笑顔を見せ
「じゃあ行こうか。浅野陽菜さん」
なんでなんだ
「あたしのことは昔と同じで悠って呼んでね」
あたしが探してやまなかった人は、もうどこにもいなかった
どこを探しても この世界のどこにも居ない
当たり前の現実だった
『ボクたちばなゆう。よろしく』
『あたしは あさのひな』
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