第2話  彼に会いたい


私は体育館の前にある掲示板に走り出す。

確か彼は1年2組だった


わずか8ヶ月前の事だと言うのに、私の記憶は酷く曖昧になっていた。

そう私と同じクラスだった

ああ、思い出せてよかった。


1年2組の名前を端から見てゆく。

緊張で喉が渇く。

はやる気持ちを抑えようと深呼吸する。大丈夫きっと見つかる

震える手を伸ばし一人一人なぞる。


浅野陽菜あさのひな  あたしの名前があった。


でも彼の名前が見つからない。どうして

ひよっとしたら他のクラスにいるかも   ない

いくら探しても彼の名前は見つからなかった。

どうして彼の名前がないの 私は途方に暮れて掲示板を見つめた

隅から隅まで何度も往復したけど、結局彼の名前が見つかることはなかった。

絶望が私を包む なんだか息が苦しい


「・・・ねえ、ちょっとあなた大丈夫?」


そう誰かに声をかけられた時には、私は意識を失い崩れるように地面に倒れた。


【この世界に彼はいないかもしれない】


そんな可能性に私は絶望した。

タイムリープという奇跡は、私に何をさせたいのだろう



「知らない天井だ」


「まあ新入生ならそうよね」

右に顔を向けるとよく知った顔が見えた。保健室の田辺先生。


「君は体育館側で倒れたんだよ。覚えているかい」


「はい」私は起き上がって軽く礼をした。


「いや礼ならそっちにいる子に言ってよ」


彼女が指差す場所には私と同じ緑色のタイをした生徒がベットにもたれかかって寝ていた。 

え なんで寝てるの


「彼女が君を背負ってここまで連れてきてくれたんだよ。

起きたらお礼言っておいて」


はい、わかりました。


彼女のショートボブが金色の髪が窓から差した陽の光で淡く輝いていた。


そちらにも軽く頭を下げてありがとうと礼を言う。


「ほら、君ももう起きなさい。そろそろ始業式も終わる頃よ」


「あの、私もう大丈夫なので戻ります」

そう言って、ベットから降りるとカバンを探す。


「ほらこれよ」

「ありがとうございます田辺先生」

保険の先生から受け取ったカバンを持って、私は保健室を後にした。


「あれ、わたし名前言ったっけ」





この世界は前の世界とは違う

少なくとも前の世界では私は保健室に入ったのはだいぶ後のことだ。


消えた彼の名前

今は現状をもう少し知りたい

それから動こう



体育科についた頃には入学式は既に終わっていて、各クラス担任が受け持ち生徒たちを連れて教室に向かうところだった。


その先頭には小柄な体に黒のスーツを着けた若い女性がいた。

2組の担任長谷川雛先生だ


私は思わず声をかけた。


「長谷川先生!」


「あれ、もう大丈夫なの?」


「はい、ご心配おかけしました」


「なら、この後ホームルームやるからついてきて」はい


雛先生は同じくいた。少し安心できた。

不登校になった私の元を何度も来てくれた。

どうしても無理そうなら転校という手もある。だから頑張ろうそう励ましてくれた


こんな私にはもったいない言葉だ。  そうだ

「先生、うちの中学からもう一人男の子が入学したと思うのですが見つからないんです」


私はその子の名前を告げ、先生に尋ねてみた。


「ああ、その子なら聞いているわ」

え 聞いてる?

「どこで見たんですか!今どこにいるんですか。教えてください!」


「ちょ、落ち着いて」


思わず先生のスーツの袖を掴んでしまう。

やっと掴んだ手がかりだ。生きている。早く会いたかった。

「彼は普通科専攻をやめて、デザイン科へ変更したんだ。そっちの方の掲示板には載っていたと思うけど」


デザイン科? 初めて聞いた科だ。前は普通科しかなかった。


これはどういうことだろう


私という異物のせいで こちらの世界も改変されている? もしそうだとしたら私がこの世界の異物だとして


私は過去の自分を振り返ってきつく唇を噛んだ。


もしそうだとしても、最悪を避けるためには動くしかなかった。


たとえ改変したとしても   私に他の道はないのだから。





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